災害時のデマが増加傾向
災害が発生すると、被災地域の状況や避難情報、救助を求める情報などがSNSを通じて一気に拡散します。情報を迅速に共有できることは災害時の大きな利点ですが、その一方で、事実と異なる情報も同じ速度で広がってしまいます。特に2026年7月に発生した令和8年熊本地震では、SNS上で多くのデマや誤情報が確認され、偽の救助要請や生成AIで作成されたとみられる動画なども拡散しました。専門家からも、過去の熊本地震と比べて情報の内容や拡散の仕方に変化がみられるとの指摘が出ています。
災害時のデマが危険なのは、単に間違った情報を知ってしまうだけではありません。災害直後は、誰もが限られた情報を頼りに避難や救助、生活上の判断をしなければなりません。そのとき、誤った情報を信じてしまえば、本来なら守ることができた自分や家族、財産などを守れなくなる可能性があります。
さらに注意しなければならないのは、自分自身がデマの発信者や拡散者になってしまうことです。「誰かの役に立つかもしれない」「念のため知らせておこう」という善意から投稿を共有する場合でも、その情報が虚偽であれば、結果として混乱を拡大させることがあります。内容によっては、業務を妨害する行為や他人の名誉を侵害する行為として、刑事責任や民事上の責任が問題になる可能性もあります。
したがって、災害時には「情報を早く知ること」だけでなく、「その情報を信じてよいのかを判断すること」が重要になります。。そこで本稿では、災害時に広がるデマに騙されず、また自ら不確かな情報を拡散しないための心がけを解説します。
生成AIの影響
災害時のデマが複雑になっている背景の一つとして、生成AIの急速な普及があります。生成AIを利用すれば、短時間で整った文章を大量に作ることができます。文章の構成が自然で、表現も具体的であると、それだけで読者は「詳しく書かれているから本当なのだろう」と受け止めてしまいがちです。しかし、文章が読みやすいことと、内容が事実であることはまったく別の問題です。もっともらしい表現は、真実性を保証するものではありません。
画像についても、従来は「写真が付いている」ということが情報の信頼性を高める材料として受け止められやすい面がありました。しかし現在では、現実には存在しない状況を写したような画像を生成することができます。そのため、画像が添付されているというだけで、投稿内容を事実と判断することはできません。
さらに重要なのは、生成AIが「偽情報を作る側」だけに使われるとは限らないことです。生成AIに情報の真偽を尋ね、その回答を根拠としてSNS上の情報を否定した結果、かえって誤った情報を広めてしまう可能性もあります。
このように、生成AIは情報を便利に作成・整理できる一方、災害時には情報の真偽を見えにくくする要因にもなります。そのため、日頃から「文章が自然だから正しい」「画像があるから本当」「AIがそう答えたから正しい」と考えない習慣を身につけておくことが重要です。
発信者の属性
SNSで見つけた情報について、その内容だけを読んで真実かどうかを判断するのは容易ではありません。そこで重要になるのが、情報を発信している人物やアカウントの属性を確認することです。誰が発信しているのかを確認するだけでも、その情報をどの程度慎重に扱うべきかを考える材料になります。
まず確認したいのは、アカウントがいつ作られたものなのかという点です。作成されてから長期間にわたって継続的に利用されているアカウントと、災害発生直後に突然作られたアカウントとでは、確認できる情報量に大きな違いがあります。発信者について判断する材料が少ない場合には、それだけ慎重に情報を扱う必要があります。
特に、アカウントを次々と作り替えているような発信者については注意が必要です。過去の発信を残さず、新しいアカウントで同じような情報を発信することが繰り返されているのであれば、発信者の実態や責任の所在を確認しにくくなります。
また、プロフィール欄に記載された肩書きや自己紹介だけで判断してはいけません。SNSでは、専門家や関係者を装うこともできます。肩書きが立派に見えることと、実際にその分野について信頼できる知識や経験を有していることは別問題です。発信者がどのような情報を継続的に発信してきたのかを見ることが重要です。
フォロワーについても一定の参考になります。どのような人々がその発信者をフォローしているのか、投稿に対してどのような反応が寄せられているのかを見ることで、発信者の情報がどのような層に受け止められているのかを把握できます。
ソースと類似投稿の有無
他人が発信した情報の真実性を判断する際には、何を根拠としてその情報が発信されているのかを確認することが重要です。いわゆるソースの確認です。発信者が「現地からの情報」「関係者から聞いた話」などと説明していても、それだけで事実だと判断することはできません。重要なのは、その情報を裏付ける具体的な根拠が確認できるかどうかです。
特に、出典がまったく示されていない情報については、慎重に扱う必要があります。災害時には情報が不足するため、断片的な情報や未確認の情報が広がりやすくなります。そのような状況で、根拠が示されていない情報をさらに共有すれば、確認されていない内容が新たな情報源であるかのように扱われてしまいます。
確認する際には、行政機関、警察、消防、自治体、交通機関など、当該情報について公式に発表できる立場にある機関の情報を確認することが基本になります。報道機関の報道についても、どの機関が何を根拠に報じているのかを確認することが重要です。SNS上の一つの投稿だけで判断するのではなく、信頼できる情報源に照らして確認するという姿勢が必要です。
さらに注意したいのが、同じ内容の投稿が多数存在する場合です。同じ情報が複数のアカウントから発信されていると、それだけで「多くの人が確認している情報なのだから正しい」と感じやすくなります。しかし、投稿数が多いことと情報の正確性は同義ではありません。生成AIや投稿の複製によって、同じ内容が短時間に大量に現れる可能性もあります。
したがって、ソースを確認するときは「何件投稿されているか」ではなく、「独立した根拠が存在するか」に注目することが大切です。数の多さによって安心するのではなく、根拠そのものを確認する姿勢が求められます。
自身の法的責任は自身で持て
SNS上で見つけた情報を拡散する際には、その情報について自分自身が責任を負う可能性があることを意識しなければなりません。「自分が最初に発信したわけではないから問題ない」「他人の投稿を共有しただけだから責任はない」という考え方は危険です。投稿の内容や拡散の態様によっては、共有した側にも法的責任が生じる可能性があります。
災害に関する虚偽情報が、救助活動や業務を妨害する結果につながれば、刑事責任が問題になる場合があります。警察庁は、令和6年能登半島地震の際、被災者を装って虚偽の救助要請をSNSに投稿し、警察官らによる不要な捜索活動を生じさせた事案について、偽計業務妨害罪で投稿者を逮捕した事例を公表しています。
また、特定の個人や企業などについて虚偽の情報を広め、その名誉や信用を傷つければ、名誉毀損などの刑事責任や、民事上の損害賠償責任が問題となることがあります。法務省も、SNSへの投稿によって他人を傷つけた場合、内容によって刑事責任や損害賠償責任を負う可能性があることを説明しています。
伝聞情報であるなら、むしろ発信する前に根拠を確認する必要があります。災害時は情報が錯綜しているため、伝聞であること自体が情報の信頼性を高める理由にはなりません。その場合に最も安全なのは、確信を持てない情報については拡散しないという選択です。警察庁も、災害時の偽情報について注意喚起を行い、違法行為に対しては取締りを行うとしています。
最後に判断するのは、自分自身です。SNS上の多数の投稿やAIの回答に判断を委ねるのではなく、根拠、発信者、情報の内容を確認したうえで、自分の常識に照らして発信する価値があるのかを考えることが大切です。
まとめ
災害時は、通常時以上に情報の正確性が重要になります。避難や救助、生活に関わる判断を短時間で行わなければならないため、誤った情報を信じることが、自分や周囲の安全を損なう可能性があります。
特に現在は、生成AIによって自然な文章や現実に存在するような画像・動画を作成できるため、「文章がもっともらしい」「画像が付いている」という理由だけで真実と判断することはできません。さらに、生成AIそのものの回答が誤っている可能性もあるため、AIの回答だけを根拠にSNS上の情報を否定することにも注意が必要です。
情報を確認するときは、まず発信者が誰なのかを確認し、アカウントの作成時期や過去の発信内容、フォロワーの状況などを一つの判断材料とします。そのうえで、情報のソースが何なのか、独立した根拠があるのかを確認することが重要です。投稿数が多いことや、同じ内容が複数のアカウントに掲載されていることだけで信用性が高まるわけではありません。
そして、情報を受け取る側だけでなく、発信する側としての責任も忘れてはいけません。虚偽情報の拡散によって業務妨害や名誉侵害などにつながれば、刑事・民事上の責任が問題となる場合があります。
災害時の情報に接したときに最も重要なのは、急いで共有することではなく、一度立ち止まることです。真偽を確認できない情報については、拡散しないという判断も重要な情報リテラシーの一つです。
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