消費税減税時の飲食店の戦略【公認会計士×中小企業診断士が解説】

事業再生

消費税減税が飲食店を追いつめる?

食品の消費税を1%へ引き下げることが検討されています。消費税率の引き下げは、消費者の負担を軽くする政策であると同時に、食品を扱う事業者の経営にも影響を与える重要な制度変更です。飲食店にとって食品の減税は、基本的には追い風になるはずです。飲食店では食材などを仕入れて料理を提供するため、食品にかかる消費税が引き下げられれば、仕入れに伴う負担が小さくなります。

現在の飲食店は、食材費だけでなく、人件費、賃料、光熱費、設備費など、さまざまなコストを負担しています。こうした経費が積み重なる中で、仕入れにかかる負担が減少することは、利益を確保するうえで一定のメリットになります。そのため、食品の消費税減税が決まれば、飲食店にとって歓迎すべきものと考えるのが自然です。

ところが、実際には、この減税が飲食店にとって大きな逆風になる可能性も指摘されています。税率が下がることによって単純に負担が減るだけではなく、飲食店を取り巻く経営環境そのものに変化が生じる可能性があるためです。減税によるメリットだけを見て経営判断をすると、制度変更によって生じる別の影響を見落とすおそれがあります。

飲食店にとって重要なのは、消費税が下がること自体ではなく、その変化が売上や利益、顧客の動向にどのような影響を与えるのかを総合的に考えることです。税負担が軽くなることを前提にするだけでは、減税後の環境に適応できない可能性があります。そこで本稿では、消費税減税時の飲食店の経営戦略を解説します。

飲食店の食事が割高になる

現在の消費税では、同じ飲食店で同じ飲食物を購入した場合でも、持ち帰りなら軽減税率の8%、店内で飲食するイートインなら原則として10%が適用されます。税率差は2%ポイントにすぎないため、消費者が購入方法を選択する際に、必ずしも決定的な差として意識されるとは限りません。しかし、食品の税率が1%に引き下げられ、店内飲食が10%のままとなると、この差は9%ポイントに拡大します。

消費者から見ると、同じ飲食物を購入する場合に、どこで食べるかによって支払う金額が大きく変わることになります。商品価格が税抜きで同一であれば、イートインのほうが税込み価格で相対的に高く見えるため、価格に敏感な顧客ほど持ち帰りを選びやすくなります。特に、短時間で食事を済ませたい人や、食事そのものに特別な付加価値を求めていない人にとっては、店内で食べる理由が弱くなる可能性があります。

飲食店にとって問題なのは、客数が同じでも売上の構成が変わる点です。イートインを前提に座席、空調、照明、食器、接客などを整えていても、持ち帰りが増えれば、その設備やサービスにかけたコストを十分に回収できなくなることがあります。しかも、持ち帰りへの移行が一時的なものではなく、消費者の新しい習慣として定着すれば、従来の店舗運営を前提とした収益モデルそのものが揺らぎます。

したがって、イートインの価格競争力が低下するなら、店内飲食に対する支払いを消費者が納得できるものにすることが重要です。飲食店は、税率そのものを動かせない以上、価格差によって生じる選択の変化を前提に、販売方法と店舗の役割を考え直さなければなりません。

コスト削減も限定的?

飲食店の仕入れの中心は、当然ながら料理や持ち帰り商品を構成する食品です。そのため、食品にかかる消費税が引き下げられれば、仕入れに伴う税負担が減り、原価を抑えられるように思えます。売上側の税率が変わる一方で、仕入れ側の負担も軽くなるのであれば、利益率の改善につながるという考え方です。

しかし、実際の飲食店では、仕入れのすべてを単純に食品として扱えるわけではありません。仕入れには食品以外のものや、軽減税率の対象にならない取引も含まれます。しかも、店舗が日々行う取引を一つひとつ完全に区分して管理することには、相当な事務負担が伴います。軽減税率の仕入れと、それ以外の仕入れを正確に分けることが現実的でない場合には、実務上、軽減税率でない仕入れの割合を大きく見込んだ暫定的な割合によって納税額を計算せざるを得ない場面もあります。

また、仕入れコストが少し下がったとしても、その利益を確保するために販売価格を据え置くのか、顧客への価格還元を行うのかという判断も必要になります。減税による恩恵を価格に反映すれば競争力を高められる一方、店舗側の利益を確保できなければ、別の費用増加に耐えられなくなります。逆に、利益改善を優先しても、消費者の価格意識が変化していれば十分な効果を得られないことがあります。

つまり、仕入れ税額の減少は重要ではあるものの、それだけで飲食店の経営課題を解決できるほど単純なものではありません。減税によって実際にどれだけ支出が減少するのかを確認し、その効果を過大評価しないことが経営判断では重要です。税率変更による影響を、原価だけでなく店舗全体の損益から捉える必要があります。

モノ消費には限界、コト消費へ

飲食店、とりわけ大衆飲食店は、できるだけ低い価格で食事を提供することを重要な使命としてきました。限られた価格の中で食材を調達し、調理工程を効率化し、回転率を高めることで、顧客にとって利用しやすい価格を実現してきたのです。これは飲食業の基本的な競争力であり、価格を抑える努力そのものには大きな意味があります。

しかし、現在の飲食業界では、原価を下げるだけで競争力を高めることが難しくなっています。食材価格、人件費、賃料、光熱費などの負担が重くなる中で、品質を維持しながらさらに原価を削る余地には限界があります。

そこで重要になるのが、飲食物そのものに加えて「店で過ごす時間」に価値を持たせる考え方です。食事をすることを単なるモノの購入ではなく、楽しさ、居心地、交流、非日常感などを含む体験として設計できれば、価格だけでは比較されにくくなります。顧客がその店を選ぶ理由が料理の価格だけでなく、そこで得られる満足に移れば、店舗側にも価格設定の余地が生まれます。

コト消費への移行で重要なのは、単に内装を豪華にしたり、サービスを増やしたりすることではありません。店舗が提供したい体験を明確にし、それが顧客の満足につながるように全体を整えることです。商品、接客、空間、時間の使い方などを一体として考え、価格以外の価値を積み上げることが求められます。飲食店が何を販売しているのかを改めて考え、料理以外の部分にも価値を見いだすことが、今後の競争力につながります。

銭湯のある挑戦

街中の銭湯は、利用者の減少や施設の老朽化、維持費の負担など、さまざまな問題を抱え、少しずつ姿を消しています。銭湯は地域に根付いた重要な施設である一方、入浴という基本的な機能だけで十分な収益を確保することが難しくなっています。

その一方で、サウナに対する需要は堅調です。入浴そのものだけでなく、発汗、休息、リフレッシュといった時間を楽しむ文化が広がり、サウナを目的として施設を利用する人も増えています。この需要を背景として、愛知県内にはサウナの総合施設もオープンしています。これは、従来の「入浴する場所」という機能から、サウナを通じて癒しの時間を提供する空間へと、サービスの軸を移したものと捉えることができます。

このような取り組みが示しているのは、施設そのものを売るのではなく、利用者がそこで過ごす時間に価値を感じてもらうという考え方です。心身を整える時間や落ち着いて過ごせる空間など、利用後に得られる満足まで含めてサービスを設計すれば、価格に対する評価も変わります。これは、モノそのものではなく、そこで得られる体験に対して対価を払ってもらうコト消費の考え方に通じます。

もっとも、コト消費に移行すれば高収益になるとは限りません。サウナの総合施設についても、入場料は高いという評判がもっぱらであり、利用者が感じる価値と価格との均衡が重要になります。設備を充実させれば、その分だけ建設費、維持費、人件費などの負担も増えます。体験価値を高めることと、コストを適切に管理することは切り離せません。

飲食店が体験を重視する場合も同じです。料理以外の価値を増やすほど経費が増える可能性があるため、何に費用をかけ、どこを抑えるのかを慎重に判断する必要があります。コト消費は価格競争から逃れるための万能策ではなく、顧客が納得できる価値と店舗が維持できる収益性を両立させる経営手法として考えるべきです。魅力を高めることだけに意識を向けるのではなく、継続的に運営できる費用構造をつくることが欠かせません。

まとめ

消費税減税は、飲食店にとって仕入れコストの低下につながる一方、必ずしも経営上の追い風になるとは限りません。食品の消費税が1%に引き下げられ、イートインの10%が維持されると、現在のテイクアウト8%との税率差が9%ポイントまで広がります。同じ飲食物でも店内で食べるほうが相対的に高くなるため、消費者がイートインを避け、テイクアウトを選ぶ動きが強まる可能性があります。これは、店内の座席や接客、設備などを前提としてきた飲食店の売上構成に影響します。

仕入れについては、食品にかかる消費税が減ることで原価低減が期待できます。しかし、飲食店の仕入れには食品以外も含まれ、軽減税率の対象とならない取引も存在します。すべての仕入れを細かく区分して管理することが難しい場合もあり、減税効果がそのまま店舗全体の利益増加につながるわけではありません。原価以外にも人件費、家賃、光熱費など多くの経費があることを踏まえる必要があります。

こうした環境では、原価を削って価格を下げるだけの経営には限界があります。特に大衆飲食店は、大手チェーンと価格だけで競争するのではなく、料理に加えて「その店で過ごす時間」に価値を持たせる方向へ転換することが重要です。。ただし、体験価値を高めるための設備や人員には費用がかかるため、価格と顧客満足、コストのバランスを慎重に管理しなければなりません。

飲食店に求められるのは、減税を単なるコスト削減策として見るのではなく、顧客が何に対して対価を払うのかを見直し、持続的に利益を確保できるビジネスモデルへ調整することです。税率が変わることで価格の見え方が変化する以上、従来と同じ商品を同じ方法で提供し続けるだけでは十分とはいえません。価格競争に依存する部分を減らし、店舗独自の価値を高めながら、その価値を提供するためのコストも管理することが重要です。消費税減税を経営環境の変化として正しく捉え、自店の強みと収益構造を見直すことが、今後の飲食店経営では重要になります。

消費税減税に伴うビジネスモデルの修正をご検討の方は是非、下記よりお気軽にご相談ください。

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