業界別、人手不足の現状と対策【公認会計士×MBAが解説】

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人手不足にもいろいろある

近年、あらゆる業界で人手不足が深刻化しています。かつては一部の専門職や地方産業に限定されていた問題でしたが、現在では都市部を含めた広範囲の産業で「人が採れない」「定着しない」という悩みが共有されるようになりました。少子高齢化による労働人口の減少が根本にあることは間違いありませんが、それだけで説明できない部分も増えています。単純に働き手が減っただけではなく、働く側が仕事を選別する傾向が強くなり、待遇、労働環境、将来性、精神的負荷などを総合的に比較する時代になったためです。
一般論として、人手不足対策の王道は生産性向上と賃上げです。企業が高い付加価値を生み出し、その利益を従業員へ還元できれば、人材は集まりやすくなります。また、生産性が高まれば、少人数でも事業を回しやすくなるため、採用競争に過度に依存しなくても済みます。この考え方自体は非常に合理的であり、多くの業界に共通する基本戦略だといえます。
しかし、実際には賃上げだけでは解決できない問題が数多く存在します。業界ごとに必要な能力、仕事の負荷、求められる適性、収益構造、人材育成期間が大きく異なるからです。ある業界では賃金を上げれば人材が集まる一方で、別の業界ではそもそも対象人材が市場に存在しないという状況もあります。また、待遇改善だけでは解決できず、業務内容そのものの見直しや、技術導入による負担軽減が不可欠な分野もあります。
したがって、今後の人手不足対策では、単なる採用競争ではなく、業界特有の構造問題を理解したうえで対応する視点が重要になります。そこで本稿では、いくつかの代表的な業界を取り上げ、それぞれの人手不足の背景と、現実的に考えられる対策について整理していきます。

情報サービス産業

現在、全業界の中でも特に深刻な人手不足に直面しているのが情報サービス産業です。システム開発、インフラ構築、クラウド運用、セキュリティ対応、データ分析など、社会のデジタル化を支える業務は急速に拡大しています。行政手続、金融、物流、医療、教育など、あらゆる分野が情報技術への依存を強めており、情報サービス産業の需要は今後も高止まりすると見込まれています。
しかし、その一方で、必要な知識と技能を備えた人材の供給が全く追いついていません。この業界の特徴は、単に知識が必要なだけではなく、その知識が短期間で陳腐化することにあります。情報機器やソフトウェア、ネットワーク技術、生成AI関連技術などは数年単位どころか数か月単位で変化しており、一度習得したスキルだけで長期間通用する世界ではありません。そのため、継続的に学習を続けられる人材でなければ戦力化が難しいという問題があります。
結果として、対象となる人材の絶対数が極めて限られます。しかも、企業間の需要が重複しているため、優秀な人材には多数の求人が集中します。このような市場では、賃上げによる採用競争だけでは限界があります。給与を上げても、そもそも採用対象者が存在しないためです。また、大企業や外資系企業が高額報酬を提示すれば、中小企業はさらに採用難に陥ります。
そのため、この業界では外部採用だけに依存しない発想が重要になります。特に重要なのが、社内育成とリスキリングの仕組みづくりです。従業員が自主的に学習を継続できるよう、資格取得支援、学習時間の確保、評価制度との連動など、学び続けることに対するインセンティブを設計する必要があります。情報サービス産業では、完成された人材を探し続けるよりも、成長可能性のある人材を継続的に育てる方が現実的な戦略になりつつあります。
技術者の働き方に対する価値観も変化しています。高収入だけではなく、柔軟な勤務形態や裁量の大きさ、学習環境などを重視する人材が増えており、単純な給与競争だけでは人材確保が難しくなっています。情報サービス産業では、学び続けられる環境そのものが、賃金と並ぶ重要な採用要素になっています。

M&A仲介業

M&A仲介業は、現在非常に強い成長を続けている業界の一つです。後継者不足による事業承継問題の拡大、企業再編の活発化、中小企業の売却需要増加などを背景として、市場規模は急速に拡大しています。その結果、多くの企業が積極的な採用を行っており、人材獲得競争も激化しています。
この業界の特徴は、人を増やせば売上も伸びやすいという点にあります。仲介担当者が案件を獲得し、成約件数を増やせば、そのまま収益増加につながるため、人件費を増やすことへの抵抗が比較的小さいです。利益率も高いため、一定の成果を出せる人材に対して高額報酬を提示することが可能です。そのため、他業界と比較しても賃上げ余力が大きく、採用市場では高年収競争が起こりやすくなっています。
しかし、この業界でも人手不足は解消されていません。その理由は、単に人数が不足しているだけではなく、「成果を出せる人材」が極端に少ないためです。M&A仲介業では、財務知識、営業力、交渉力、経営理解、コミュニケーション能力など、多面的な能力が求められます。しかも、短期間で信頼関係を構築し、複雑な利害調整を進める必要があるため、適性の差が非常に大きく出る業界でもあります。
そのため、経験者だけでは必要人員を確保できないため、ポテンシャル採用も盛んです。未経験者や異業種出身者を積極的に採用し、一定期間で育成するモデルが広がっています。ただし、M&A仲介業は成果主義色が強く、全員が高収入を得られるわけではありません。そこで多くの企業は、固定給を比較的低めに設定し、その代わり成果報酬を大きくする給与体系を採用しています
この仕組みには合理性があります。企業側としては固定費を抑えながら採用人数を増やすことができ、従業員側は成果次第で高収入を狙えるためです。しかし一方で、成果が出るまでの精神的負荷は大きく、離職率が高まりやすいという問題も抱えています。特に、短期間で結果を求めすぎる組織では、人材が定着しにくくなります。単に「稼げる業界」であることを強調するだけではなく、継続的に働ける組織運営をどう実現するかが、今後の重要課題になっていくでしょう。

運輸・警備・建設業界

運輸業、警備業、建設業界の人手不足も極めて深刻です。これらの業界は社会インフラを支える重要な分野であり、生活や経済活動を維持するうえで不可欠な存在です。しかし、その重要性とは裏腹に、慢性的な人材不足が長期間続いています。
これらの業界に共通しているのは、かつて「3K」と呼ばれた仕事が多い点です。特に「きつい」という要素は、現代社会において強く敬遠される傾向があります。肉体的負荷、長時間労働、不規則勤務、天候依存、危険性など、身体的・精神的な負担が大きい仕事は、若年層を中心に選ばれにくくなっています。
さらに現在は、「きつい仕事をしなくても最低限の生活は可能」という社会構造が存在しています。もちろん高収入を得ることは簡単ではありませんが、高望みをしなければ、比較的負荷の軽い仕事でも一定水準の収入を得られる時代です。そのため、わざわざ体力的に厳しい仕事を選ぶ動機が弱くなっています。
賃上げも一定の効果はありますが、限界があります。特に中小企業が多い業界では、価格競争が激しく、十分な利益を確保しづらいためです。発注側が低価格を求め続ければ、現場の賃金改善余力は小さくなります。つまり、人手不足対策を企業努力だけに委ねることには限界があるります。
したがって、この分野では「仕事の負担そのものを減らす」という視点が極めて重要になります。特に、機械化やAI導入による身体的負荷軽減は不可欠です。運輸業では自動化支援、警備業では監視システム高度化、建設業では重機の高度制御など、人の体力に依存しすぎない仕組みづくりが求められています。
今後は、単なる根性論や長時間労働ではなく、「少人数でも安全かつ持続可能に回る仕組み」をどれだけ構築できるかが重要になります。人手不足時代においては、労働力を消耗品のように扱う発想そのものを改める必要があります。

非正規分野

非正規雇用分野でも、人手不足は深刻化しています。特に人材派遣業では、登録者不足や定着率低下が大きな課題になっています。かつては柔軟な働き方として一定の需要がありましたが、近年では働く側の認識が変化し、派遣という働き方そのものに対する警戒感が強まっています。
その背景には、収入の不安定さがあります。派遣労働では、実際の働き方や契約条件が派遣会社の都合に左右されやすく、継続的な収入を見通しにくいという問題があります。契約更新の有無、派遣先変更、待機期間の存在など、自分の意思だけでは調整できない部分が多いため、長期的な生活設計が難しくなりやすいです。
また、働き方に対する価値観の変化も大きく影響しています。以前は「正社員以外の選択肢」として派遣が広く受け入れられていましたが、現在では一定スキルを持つ人材ほど、より自由度の高い働き方を選択する傾向があります。特にデジタル化の進展によって、個人が直接仕事を受注できる環境が整備されつつあり、フリーランスという働き方が現実的な選択肢として浸透しています。
フリーランスには不安定さもありますが、自分で仕事量や案件を調整できる自由があります。収入上限も比較的高く、自分の裁量で働ける点を魅力に感じる人も少なくありません。その結果、一定以上の能力を持つ人材ほど、派遣会社を介した働き方を避ける傾向が強まっています。
今後も、人材派遣業のように「人を仲介することで利益を得る産業」は、従来型モデルのままでは縮小圧力を受ける可能性があります。もちろん完全になくなるわけではありませんが、単純な労働力供給だけでは価値を維持しにくくなります。今後は、専門性の高いマッチング、教育機能、キャリア形成支援など、単なる仲介以外の価値提供が求められるでしょう。
また、非正規分野全体としても、「柔軟な働き方」という言葉だけでは人材を惹きつけにくくなっています。働く側は、自由度だけではなく、安定性、成長性、将来設計可能性まで含めて雇用を選ぶようになっています。そのため、短期的な人材確保だけではなく、長く働ける仕組みをどのように構築するかが重要な課題になっています。

まとめ

人手不足は、もはや一部業界だけの問題ではありません。日本社会全体で労働人口が減少する中、あらゆる産業が人材確保に苦しむ時代に入っています。しかし、本稿で見てきたように、人手不足の原因は業界によって大きく異なります。そのため、「賃上げをすれば解決する」という単純な話ではありません。
情報サービス産業では、高度化・高速化する技術変化に対応できる人材そのものが不足しています。単なる採用競争では限界があり、社内育成やリスキリング支援を通じて、継続的に学び続けられる環境を整えることが重要になります。完成された人材を探し続けるより、育成前提の組織へ転換する視点が求められています。
M&A仲介業では、高収益構造を背景に高額報酬競争が激化しています。しかし、成果を出せる人材は限られており、引き抜きだけでは人材不足は解消しません。ポテンシャル採用や育成体制の整備、過度な成果主義の修正など、「長く働ける組織」をどう構築するかが重要になっています。
運輸、警備、建設業界では、仕事そのものの身体的負荷が大きな問題です。現代では、厳しい労働環境を受け入れる動機が弱くなっており、従来型の長時間労働や根性論では人材確保が困難になっています。機械化、AI導入、業務見直しによって、人に過度な負担をかけない構造へ変えていく必要があります。
非正規分野では、派遣労働に対する不安定イメージが広がり、一定スキルを持つ人材ほどフリーランスや直接契約へ流れる傾向が強まっています。単なる人材仲介だけでは価値を維持しにくくなっており、教育支援や専門性の高いマッチングなど、新たな付加価値が求められています。
結局のところ、人手不足問題の本質は、「人をどう集めるか」だけではありません。「人が継続して働ける構造をどう作るか」という視点こそが重要です。高齢化と人口減少が進む以上、以前のように大量採用で問題を解決する時代は終わりつつあります。今後は、少人数でも持続可能に機能する組織設計、生産性向上、負担軽減、人材育成を総合的に進める企業だけが、人手不足時代を乗り越えていくことになるでしょう。
当研究所では、御社の人手不足の根源を確認したうえで、最適な施策を探すことを支援いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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