新規事業構築の外してはならないコツ【弁護士×中小企業診断士が解説】

起業

新規事業構築で失敗しないために

新規事業を構築しようとすると、社内からさまざまなアイディアが出てきます。既存事業との関連性を重視したもの、新しい市場への進出を目指すもの、保有する技術や人材を活用するものなど、発想そのものはいくらでも広げることができます。

しかし、アイディアが数多く出てくることと、その中から成功する事業を選び出せることは別問題です。新規事業には既存事業にはない不確実性があり、事業開始前の段階では、どの案が十分な収益を生み出すのかを完全に見通すことはできません。

また、新規事業について「何か新しいことをしなければならない」という意識だけで考え始めると、発想が際限なく拡散してしまいます。自由な発想自体は重要ですが、方向性を定めずにアイディアを増やすだけでは、検討に時間がかかる一方で、判断材料が整理されません。結果として、社内で声の大きい人の意見や、経営者の好みに左右され、客観的な事業選択が難しくなることもあります。

さらに、新規事業では既存事業との違いを意識するあまり、「新しいこと」そのものが目的になってしまうことがあります。しかし、顧客にとって新しいかどうかと、事業として価値があるかどうかは同じではありません。

重要なのは、思いついたアイディアを無条件に事業化するのではなく、一定の考え方に沿って候補を絞り込むことです。検討の軸を明確にすれば、アイディアの数が多いこと自体が問題ではなくなり、比較や評価もしやすくなります。新規事業は、ひらめきだけで成功するものではなく、考える順序と判断基準を整えることで成功可能性を高めることができます。そこで本稿では、新規事業構築における基本的な考え方を紹介することにします。

ニーズ起点は必須

新規事業を構築する際に最も重要な出発点の一つが、顧客のニーズです。事業とは、基本的には誰かが抱えている何らかの需要や不便、課題を充足することによって、その対価を受け取る活動です。どれほど優れた商品やサービスであっても、それを必要とする人が存在しなければ、継続的な売上につなげることはできません。

そのため、新規事業を考えるときには、「何を作るか」よりも先に、「誰が何を必要としているのか」を明確にすることが重要です。顧客がどのような場面で不便を感じ、何を改善したいと考え、どの程度の価値を感じているのかを把握することで、事業として提供すべき価値が見えてきます。単に商品やサービスを販売するのではなく、顧客が支払う理由を明確にすることが事業構築の基本になります。

新しいニーズそのものを掘り出すことも可能ですが、これは容易ではありません。まだ顧客自身も明確に認識していない需要を発見するためには、継続的な調査や観察、分析が必要になります。そこには相応の時間と費用がかかり、発見した需要が本当に市場として成立するかどうかについても不確実性が残ります。

だからこそ、新規事業を検討する際には、すでに存在しているニーズに目を向けることが重要です。既存の需要であっても、その充足方法には改善の余地が残されている場合があります。既存のニーズは、すでに顧客の行動や支出という形で表れているため、事業化の可能性を検討しやすいという利点があります。

新規事業では、提供者側が「これは便利だ」「これは画期的だ」と評価するだけでは不十分です。顧客側から見た価値と支払意思を確認し、需要と事業性を結び付けて考えることが欠かせません。ニーズを起点に考えることは、単に顧客志向になるという意味ではなく、事業として成立する可能性のある方向へ検討を集中させるための基本的な考え方なのです。

シーズを組み合わせる

ニーズが明確になった後は、そのニーズをどのような方法で充足するかを考える必要があります。その際に重要になるのが、企業や組織が持っているシーズです。シーズとは、技術、ノウハウ、人材、設備、情報、ブランド、顧客基盤など、事業を実現するために活用できる経営資源を指します。

新規事業では、既存のシーズをそのまま利用するだけでなく、複数のシーズを組み合わせることで、新しい価値を生み出せる可能性があります。一つ一つの資源には大きな特徴がなくても、異なる資源を組み合わせることで、従来とは異なる方法によって顧客のニーズを満たせる場合があります。

一方で、シーズを起点に新規事業を考えることには注意が必要です。企業は自社が保有する技術や設備、人材に強い思い入れを持ちやすく、それらを活用すること自体が目的になってしまうことがあります。しかし、どれほど高度な技術や優れた仕組みであっても、それによって誰のどのようなニーズを充足するのかが明確でなければ、事業上の価値は生まれません

シーズは「持っているから使う」のではなく、「ニーズを満たすために使えるから活用する」という順序で考えることが大切です。そのためには、保有するシーズを固定的に捉えるのではなく、用途を広げて考える姿勢が必要になります。

新規事業におけるシーズ活用では、「何を持っているか」から始めるのではなく、「何を実現したいか」を明確にすることが基本です。そのうえで、利用可能なシーズを探し、組み合わせ、必要に応じて不足するものを補います。ニーズを起点としてシーズを柔軟に組み合わせることで、既存資源を有効活用しながら新しい事業価値を生み出すことができます。

収益性のチェック

新規事業は、検討を始めると「せっかく考えたのだから実行してみよう」という方向に進みやすいものです。社内で多くの時間を使って企画を作り、関係者が準備を進めるほど、途中で計画を見直すことに心理的な抵抗が生じます。しかし、新規事業は実行すること自体が目的ではありません。企業として継続的な価値を生み出し、最終的に収益につなげることが重要です。

特に注意すべきなのは、赤字になる可能性が高い事業を、十分な検証をしないまま進めてしまうことです。新規事業には一定の投資が必要ですが、「新規事業だから赤字でも仕方がない」と考えてしまうと、損失が膨らむまで問題を認識できなくなる危険があります。

そのためには、事業開始前から収益性を測るための指標を設定することが重要です。売上高だけを見るのではなく、顧客数、顧客単価、利益率、獲得コスト、継続率など、事業の特性に応じたKPIを設定します。KPIを定めることで、事業が計画どおり進んでいるのか、どの部分に問題があるのかを客観的に判断しやすくなります。事業開始後に想定を下回る結果が続く場合には、その原因を分析し、改善によって立て直せるのかを判断する必要があります。改善の余地が乏しく、今後も十分な収益性を確保できないのであれば、事業を縮小したり撤退したりすることも経営判断の一つです

新規事業では、始める判断だけでなく、続ける判断とやめる判断も同じように重要です。あらかじめKPIと判断基準を設定し、感情や社内の事情だけに左右されない仕組みを整えておくことで、限られた経営資源をより有望な事業へ配分しやすくなります。

BCPとしての知財戦略

新規事業が市場で成功すると、その事業に参入しようとする競合他社が現れる可能性があります。事業として魅力が高いほど、競合から見ても参入する価値が高くなります。自社が時間と費用をかけて構築した仕組みが模倣されれば、価格競争が激しくなったり、顧客を奪われたりするなど、事業の継続に影響する事態が生じることがあります。

また、競合からの脅威は、商品やサービスそのものの模倣だけではありません。新規事業を成立させるために特定の技術、素材、部品、情報、製造方法などが必要な場合、それらの供給をめぐって競争が発生する可能性もあります。必要な資源を安定的に確保できなければ、顧客から十分な需要があったとしても、事業を継続できなくなるおそれがあります。

こうした事態に備えるうえで、知的財産を事業の防御手段として捉えることが重要です。特許、商標、意匠、著作権、営業秘密など、それぞれの知的財産には保護できる対象や成立条件に違いがあります。そのため、単に権利を取得することを目的とするのではなく、自社の事業にとって何を守る必要があるのかを整理したうえで、適切な権利や管理方法を選択する必要があります。

知財戦略というと、競合他社に対して権利を行使し、相手の事業を止めるためのものと考えられがちです。しかし、知的財産の価値は攻撃だけにあるわけではありません。自社の事業を安定して継続するための防御手段として活用することにも大きな意味があります。競合による模倣を防ぎ、自社の独自性を維持し、事業上重要な資源を確保するための基盤として考えることができます。

新規事業は、顧客に価値を提供して売上を上げるところまで考えて終わりではありません。競合の参入や必要資源の確保難など、事業を脅かす外部要因への備えも必要です。知的財産を他社への攻撃手段としてだけでなく、自社の事業を守り、継続させるためのBCPの一部として位置付けることが、新規事業を長く育てるうえで重要になります。

まとめ

新規事業を構築する際には、思いついたアイディアをそのまま事業化するのではなく、一定の順序で検討することが重要です。アイディアは数多く生まれますが、重要なのは、その中から事業として成立する可能性の高いものを選び取ることです。

まず意識すべきなのは、顧客のニーズです。誰がどのような価値を求めているのか、そして、その価値に対して実際に対価を支払うのかを考えることが事業構築の出発点になります。新しい需要を無理に生み出そうとするのではなく、すでに存在する需要をどのように充足するかを考えることも有効です。

そのうえで、ニーズを満たすために必要なシーズを探します。自社が持つ技術やノウハウだけに限定せず、複数の資源を組み合わせることで、より高い価値を生み出せる可能性があります。シーズありきではなく、ニーズを起点として必要な資源を考えることが重要です。

さらに、収益性についても冷静に確認しなければなりません。KPIを設定し、事業の進捗や収益性を客観的に把握できる状態を作ることで、継続、改善、撤退の判断がしやすくなります。新規事業だからという理由だけで赤字を許容し続けることは避けるべきです。

そして、事業が成功した後の競争環境まで考えることも欠かせません。模倣や必要資源の確保難などによって事業の継続が妨げられる可能性があるため、知的財産を守りの手段として活用する視点が必要です。

新規事業構築では、発想力だけでなく、ニーズ、シーズ、収益性、事業防衛という複数の視点を持つことが重要です。これらを一つずつ丁寧に確認することで、思いつきに依存せず、事業として長く育てられる可能性を高めることができます

当研究所では、法律・会計・技術を総合的に活用した起業支援サービスを提供しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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