従業員退職型倒産を防止するための施策とは?

事業再生

従業員退職型の倒産が増加傾向

帝国データバンクの調査によると、従業員退職型の倒産件数が増加しています。倒産件数の増加はどの業界でも共通のことで、人手不足や材料費高騰などが起因となっていることも共通しています。帝国データバンクの調査結果によれば、経営幹部や従業員の離職・退職が倒産の原因となった件数も、総倒産件数に占める割合も過去最高で、業種としてはサービス業や建設業など、人材定着率が低い業種の割合が多くなっています。これは、こうした業種の構造的な問題であるようにも見えますが、単純に人手不足や定着率の低い業種だからという点だけで解決される問題ではなさそうです。
そこで本稿では、こうした従業員退職型の倒産の本質を分析したうえで、その対策を説明いたします。

人手不足倒産との違い

この従業員退職型倒産ですが、一般に言う人手不足倒産とは次元を異にします。一般的な人手不足倒産は、代替可能な比較的平易な業務の担い手を確保できない問題で、採用が難しい状況をふまえて早めに採用活動を行うことで解決すべきですし、こうした人材が複数不足している場合、仕事を請けすぎで、仕事の方を減らす必要があります。
これに対し、今回問題としている従業員退職型倒産とは、経営幹部や現場で中心的な役割を果たす従業員など、他の人が代替できない仕事を担っている方が辞めてしまうことにより、事業活動が回らなくなり、組織が崩壊してしまうケースです。
M&Aにおいても、単に事業内容だけ見るのではなく、こうしたキーパーソンを承継できるかを必ずチェックします。このように事業活動に欠かせないキーパーソンは、まさに「人財」であり、目に見える数字をはるかに上回る価値があるため、絶対に引き留めなければならない存在です。

キーパーソンの特定

こうして会社の事業活動を遂行するうえで代替できないキーパーソンを維持することが必要で、そのためには誰がキーパーソンであるかを特定することが必要です。では、どのようにキーパーソンを特定すべきかというと、目に見える数字などだけを追うのではなく、「代替不能な役割を担っているか」という観点で丁寧に一人一人を見ることが必要です
例えば、一定の資格を有する者でなければできない仕事があります。弁理士や司法書士などの仕事はその一定割合を無資格者に任せることが多いですが、最終的な仕事は資格者が行わなければなりません。いくら仕事ができなくても資格者は最低1人は必要ですし、逆にいくら仕事ができても無資格者はキーパーソンたり得ないこともあります。また、個人で多くの仕事をこなせる人よりも、周囲の士気を高めて組織全体の生産性を高めることの人材の方がキーパーソンであることが多いです。

キーパーソンの評価と待遇

キーパーソンの特定ができれば次はこうしたキーパーソンの評価を高くした上で、待遇に反映する必要があります。ここで2つの問題が一般的に発生しがちです。
1つ目は賃上げしたくても無い袖は振れないパターンです。人件費がギリギリの企業では賃上げの必要性は感じていても賃上げすると赤字になるためできないケースがあります。キーパーソンがいるのにこうしてギリギリなのは現場の活動が最適化されていないことが要因であることが多く、まずはキーパーソンを中心に業務分担や流れを見直すことが大事です。
2つ目は定量的に結果を出している方よりも定性的に結果を出している方を優遇すると不公平感が生じてしまう点です。この点については評価基準をまず見直してこれを公開することにより、透明かつ公平な評価であることを理解してもらうステップが必要となります。

キーパーソン維持のためのリスクヘッジ

キーパーソンの離職のリスクは会社への不満による退職だけではありません。病気や事故による離職もあれば、他社からの引き抜きも増加しています。
病気や事故に対するリスクヘッジに関しては、保険の活用や健康診断の全員受診など地道な対応が不可欠だと考えられます。また、他社からの引き抜き対策としては、定期的にキーパーソンとの面談を行い、給料以外の部分で本人のキャリアプランややりたい仕事を把握してその希望に応えていく必要があります
雇用の流動化が進む中で、キーパーソン離脱のリスクは多岐にわたる可能性があります。契約で縛れば解決という問題ではありませんので、専門家に相談しながら、様々な可能性を想像し、その芽を摘み取っていく地道な作業が必要です。

まとめ

特に中小企業は、キーパーソンを引き抜かれるとその瞬間に会社の業務が立ちゆかなくなるおそれがあります。また、M&Aを行う企業は虎視眈々とこうしたキーパーソンだけを狙い、その他の脇役には一切目を向けない傾向があります。企業を中長期的に維持するためには、キーパーソンを絶対に流出させない仕組みを構築するとともに、こうしたキーパーソンを増やして相互に代替可能な人材を増やしていくことでリスクヘッジを進めていくことが必要です。決して見た目の印象や数字だけで感覚的に判断せず、丁寧に評価して対応していくことが不可欠です。
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