組織は代表者の私物ではない
一昔前までは、会社の経営状態が悪化すると、代表者が「もう経営できない」と判断し、会社を倒産させてしまうケースが少なくありませんでした。もちろん、事業を継続することが現実的に困難となり、法的整理を選択せざるを得ない企業もあります。しかし、経営が悪化したという一事をもって、会社全体を終わらせることが唯一の選択肢になるわけではありません。
近年では、別の理由から事業を終了させる企業も増えています。特に深刻なのが後継者不足です。経営者が高齢になっても後継者が見つからず、一定の事業基盤や顧客を有しているにもかかわらず、事業承継を行わずに会社を畳んでしまうケースがあります。経営者自身にとっては、長年経営してきた会社を閉じることが一つの区切りであっても、会社を取り巻く人々にとっては、それだけでは済まない問題です。
会社には、代表者以外にも従業員、取引先、金融機関、顧客、仕入先など、さまざまな関係者が存在します。従業員にとって会社は生活を支える職場であり、取引先にとっては継続的な取引関係を形成する相手です。顧客にとっても、必要な商品やサービスを提供してくれる存在でしょう。そのため、代表者が会社を終わらせるという判断は、代表者個人だけに影響するものではありません。
経営危機に直面したときには、「会社を続けるか、倒産させるか」という二択だけで考えるべきではありません。会社の中に残すべき事業や機能が存在するのであれば、それを維持する方法を検討することが重要です。経営者には、自らの会社に対する思いだけでなく、会社に関わる人々への影響も考慮した判断が求められます。そこで本稿では、こうした方々を守るための事業再生の手法を紹介します。
活かすか殺すかではない
傾きかけた企業の事業再生を考える際、「会社を活かすか、会社を終わらせるか」というオールアンドナッシングの発想に陥ってはいけません。企業という一つの組織を細かく見ていけば、事業ごと、商品ごと、顧客層ごとに収益性が異なっていることが一般的です。
企業の中には、安定的に利益を生み出している部門がある一方で、継続するほど損失が膨らむ部門が存在することがあります。したがって、会社全体の数字だけを見て経営の可否を判断するのではなく、事業単位で収益構造を把握することが重要です。
収益を生み出している部門は、すでに顧客から必要とされ、社会に一定の価値を提供している可能性があります。そのような部門まで、会社全体の経営不振を理由として失わせてしまうことは、事業再生という観点から見ると慎重に考える必要があります。一方、不採算部門についても、単純に不要なものと決めつけることはできません。赤字の原因を分析すると、一時的な投資負担によるものなのか、固定費が過大なのか、需要そのものが失われているのかなど、さまざまな事情が考えられます。原因によって必要となる対応は異なります。問題の性質を把握せずに一律の判断をすれば、かえって再生の可能性を失うことになります。
重要なのは、収益を生み出している部分と、企業全体の資金を流出させている部分を区別し、それぞれについて適切な判断を行う必要があります。早い段階で不採算部門の問題を把握できれば、企業全体の収益構造を改善できる可能性があります。
事業再生では、企業を「活かすか殺すか」という単純な判断ではなく、企業の中にある価値をどのように残すかという視点が重要です。会社全体を存続させることだけが再生ではありません。価値のある事業を維持しながら、企業の収益構造を改善していくことも、十分に事業再生の対象となります。
不採算部門を廃止する
不採算部門について適切な手当てを行わないまま放置すると、赤字が積み上がり、会社全体の資金繰りを圧迫することになります。そのような場合には、不採算部門を廃止するという判断も必要になります。
企業経営では、「一度始めた事業をやめるのは失敗を認めることになる」と考えてしまうことがあります。しかし、過去に投じた資金や時間を惜しんで赤字事業を継続すれば、将来の損失まで拡大する可能性があります。すでに回収できない過去の投資と、これから発生する損失は分けて考えなければなりません。
不採算部門を廃止する最大の意味は、企業全体を巻き込んだ経営悪化を防ぐことにあります。もちろん、部門を廃止すれば、そこに勤務している従業員や取引関係者などに一定の影響が生じます。そのため、廃止を決定する場合にも、単純に「赤字だから切る」というだけでは十分ではありません。雇用関係、契約関係、設備、在庫、顧客対応など、廃止に伴って発生する問題を整理し、できる限り混乱を抑えることが求められます。
企業再生において大切なのは、全員を守ることができない状況であっても、被害を可能な限り小さくするという考え方です。企業の中で何を残し、何を終了させるのかを冷静に判断する必要があります。
不採算部門の廃止は、後ろ向きの経営判断とは限りません。企業全体の価値を守るために、損失の拡大を止めるための積極的な再生策となる場合があります。重要なのは、感情や過去への執着ではなく、現在と将来の企業価値を基準として判断することです。
採算部門を譲渡する
企業再生では、不採算部門を整理するだけでなく、採算部門を会社から切り出して他社へ譲渡するという方法もあります。会社全体としては経営が厳しくても、その中に収益性の高い事業が存在するのであれば、その事業自体には経済的な価値があります。その価値を第三者に移転することで、事業を存続させながら再生を進めることが可能になります。
採算部門を譲渡する場合には、何を譲渡し、何を残すのかを明確にする必要があります。事業に必要な契約、設備、知的財産、人員、顧客との関係などを整理し、譲渡後も事業が継続できる状態を整えることが重要です。また、従業員の処遇についても、法的な手続や当事者間の合意を踏まえて慎重に対応する必要があります。
買い手が十分な経営資源を持つ企業であれば、譲渡後に事業の成長余地が広がることもあります。資金力、営業網、技術、人材、管理体制などが加わることで、従来の会社では十分に活用できなかった事業価値が発揮される可能性があります。従業員にとっても、事業そのものとともに雇用の受け皿が確保されることには重要な意味があります。
このように、企業再生では「会社を丸ごと残す」ことだけを目標にする必要はありません。価値のある事業を切り出して存続させ、その事業に関わる従業員や取引先への影響を抑えることも、一つの重要な選択肢です。会社全体の形を維持することと、事業そのものの価値を維持することは、必ずしも同じではないのです。
不動産を切り出す
企業が保有している不動産は、事業活動を支える重要な資産である一方、経営危機においては資金を生み出す手段となることがあります。特に、長年保有している土地や建物については、帳簿上の価額と現在の市場価値との間に差が生じている場合があります。そのため、保有不動産の価値を改めて確認することは、事業再生を検討するうえで重要です。
不動産を売却すれば、まとまった現金を得られる可能性があります。企業にとって資金繰りは事業継続の生命線です。不動産を現金化することで、短期的な資金繰りを改善し、事業を継続するための時間を確保できる場合があります。
また、不動産の売却によって含み益を実現できるケースもあります。帳簿上はそれほど大きな資産価値として計上されていなくても、市場価格が上昇していれば、売却によって差額を実現できる可能性があります。
さらに、単純な売却だけでなく、不動産を会社から切り離したうえで利用を継続するなど、さまざまな方法を検討できる場合があります。重要なのは、「不動産を持っているから安心」と考えるのではなく、その資産が現在の経営課題に対してどのような役割を果たしているのかを見直すことです。
経営危機に陥った企業では、売上を増やすことばかりに目が向きがちです。しかし、すでに保有している資産を適切に活用することで、資金繰りや財務体質を改善できることがあります。不動産は企業にとって大きな固定資産となるため、その保有方法を見直すことが、現在抱えている経営課題を解決する有効な手段となる場合があります。
まとめ
経営が悪化した企業が直面する最大の問題は、「会社を続けられるか」という一点だけではありません。会社には従業員、取引先、顧客、金融機関など、多くの関係者が存在しており、会社を閉じるという判断は、それらの人々にも大きな影響を及ぼします。そのため、経営者が会社を終わらせる前に、企業の中に残されている価値を冷静に見極めることが重要です。
事業再生では、会社全体を一つの単位として考えるのではなく、事業や部門ごとの収益性を確認することが必要です。収益を生み出す事業と不採算事業を区別することで、企業全体を存続させる以外にも、価値を残す方法が見えてきます。不採算部門の廃止によって損失の拡大を止めることも、企業全体への影響を抑えるための重要な判断です。
また、採算部門を第三者へ譲渡することで、事業そのものを存続させる方法もあります。会社としては再編や清算が必要になったとしても、事業に価値があれば、その価値を別の企業に引き継ぐことができます。従業員にとっても、事業の存続によって働く場が維持される可能性があります。
さらに、不動産などの保有資産を見直すことも重要です。資産を現金化することで資金繰りを改善したり、含み益を実現したりすることで、経営再建に必要な資金を確保できる場合があります。
重要なのは、経営危機に陥った段階で「もう駄目だ」と判断してしまわないことです。会社を丸ごと残すことが難しくても、事業、雇用、取引関係、資産など、残すことのできる価値は存在する可能性があります。経営者には、その価値をできるだけ守るために、早い段階から再生の可能性を検討する姿勢が求められます。
当研究所では、経営・財務・法務のあらゆる側面から事業再生を支援いたします。下記よりお気軽にご相談ください。


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