弁当店の倒産が過去最多ペースに
近年、日本各地で弁当店の倒産が相次いでおり、その数は過去最多ペースで推移しています。帝国データバンクが公表した統計によれば、コロナ禍以降弁当店の倒産件数が前年比で着実に増加し続けており、このままのペースで進めば、年間の倒産件数は今年も過去最高を更新する見込みとなっています。地元に根付いた個人経営の店から、複数店舗を展開するチェーン店まで、規模を問わず厳しい経営状況に直面している現実があります。
弁当店は働く人のランチ需要が一定程度あるため、全く売れないということはありませんが、収支をプラスに持っていくことが年々困難になってきていることが数字から伺えます。ではその要因は何なのか、過当競争なのか、大手資本の独占なのか、本稿では町のお弁当屋が生き残るための至極単純な方向性について解説します。
物価高騰、特に米の高騰が大きな要因に
お弁当屋の倒産増加の背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っていますが、最大の要因として指摘されているのが「物価高騰」です。特に最近では、弁当の主原料である米の価格が急騰しており、多くの弁当店が仕入れコストの増大に悲鳴を上げています。日本人にとって弁当と米は切っても切れない関係にありますが、この基盤となる米の価格上昇は、弁当の原価に直結し、値上げせざるを得ない状況を作り出しています。
実際、農林水産省のデータでも、ここ数年でコメの価格は急上昇しており、特に2024年の後半からは天候不良や輸送コストの上昇、さらには農業従事者の高齢化といった複数の要因が重なり、過去10年で最も高い水準に達しています。こうした状況の中、弁当店は価格転嫁をしたくても、消費者の財布事情を考えると簡単に価格を引き上げることができず、結果として利益が圧迫され、経営破綻に至るケースが増えています。
ワンコイン弁当はもはや限界
一方で、消費者の側にも大きな変化が見られます。物価高騰の影響は消費者にも及び、多くの人が「できるだけ安く、しかしそれなりに満足できるランチを」と考えるようになっています。特にワンコイン、すなわち500円以下でランチを済ませたいという需要は依然として根強く、SNSなどでも「500円ランチ」の情報交換が盛んに行われています。
しかしながら、現在の原材料費や人件費、光熱費などの上昇を考えると、500円以下での弁当提供は非常に厳しいというのが現実です。原価率を無理に下げると、味やボリュームに影響が出てしまい、顧客満足度を損なう恐れがあります。また、無理なコストカットは従業員の労働環境にも悪影響を及ぼしかねません。
昼食を安く済ませる方法はいくらでもある
このような中、安く済ませたいというニーズに応えるため、弁当以外の選択肢に目を向ける消費者も増えています。たとえば、カップラーメンやコンビニのサンドイッチ、冷凍食品などは比較的安価で手軽に食べられるため、若年層を中心に人気が高まっています。また、スーパーやドラッグストアでもワンコイン以下で買える食品が多く並んでおり、お昼休みを有意義にかつようしたいというタイムパフォーマンスの志向が強まっていることなどから「お弁当一択」だった時代から大きく様変わりしているのが現状です。
つまり、コスト高の中で強引に500円以内に収めたワンコイン弁当を提供したとしても、顧客側のありがたみは年々小さくなり続けています。
顧客の便益を考えよ
こうした競争環境の中で、生き残りをかけて奮闘している弁当店もあります。特筆すべきは、明確な“強み”を持った店が一定の支持を得ているという点です。たとえば、「から揚げがジューシーで絶品」といったような、料理の品質における独自性がある店には、昼休みに行列ができる光景も見られます。このような店舗は、多少価格が高めでもリピーターがつきやすく、安定した売上を確保できている傾向があります。
また、「ご飯の量が選べる」「週替わりメニューで飽きない」「栄養バランスを考慮した健康志向の弁当」など、差別化されたサービスを提供している店も人気です。つまり、価格競争に巻き込まれるのではなく、自店ならではの魅力を明確に打ち出すことで、価格以外の価値を提供しているわけです。
さらに、SNSでの情報発信や、LINEでの事前予約システム、配達対応など、ITを活用したサービス拡充も、生き残り戦略として有効です。これらの施策は初期投資こそ必要ですが、うまく運用すれば新規顧客の獲得やリピーターの維持につながりやすく、安定した経営基盤の確立に貢献します。
このように、現在の弁当業界は非常に厳しい環境に置かれている一方で、シンプルながらも効果的な対策を講じている店はしっかりと生き残っています。物価高騰や消費者の節約志向といった逆風の中でも、独自性や工夫を重ねて、お客にとっての魅力を明確に打ち出すことで道は開けるのです。
まとめ
弁当店の倒産が過去最多ペースで進んでいる背景には、物価、特に米価格の高騰と、それに伴う価格転嫁の難しさが大きく影響しています。消費者は安価なランチを求めているものの、現状ではワンコインでの提供は困難を極め、弁当以外の選択肢に流れる傾向も強まっています。
しかし、味のクオリティや独自サービス、SNSによる集客といった“強み”を持つ弁当店は依然として支持を集めています。今後の弁当業界に求められるのは、単なる価格競争ではなく、「自店の魅力をいかに発信し、支持を得るか」という視点です。生き残るためのシンプルな方策とは、まさにこの“強みの明確化と発信力の強化”に他なりません。
当研究所では、経営・会計に両方とも強い弁護士・公認会計士・中小企業診断士・MBAが御社の経営戦略を高度化し、収益性の低下傾向のある事業部門の早期立て直しをサポートいたします。下記よりお気軽にご相談ください。
コメント