ホテル雅叙園東京の一方的な契約解除。そのリスクと正しい対応

リスクマネジメント

ホテル雅叙園東京が今年10月以降の結婚式予約を大量に解約

ホテル雅叙園東京が、オーナー変更によって改装時期を変更するという理由で、今年10月以降に結婚式を予約していたカップルとの契約を一方的に解消したことが問題となっています。その数は実に180とも言われており、改装前の空いている日程(おそらくお日柄が良い日程は空いていない)への前倒しか、他の式場への変更を促されているようですが、両方ともそう簡単に決断できるものではありません。
契約は守らなければならないものですが、契約の履行に重大な支障がある場合などには契約解除ができる場合もあります。本稿では、このホテルの対応が抱えるリスクの内容と、本来あるべき正しい対応を整理したいと思います。

契約約款の違約金条項に基づくが・・

結婚式の式場予約は、多くの場合、各式場所定の契約約款に従う旨の条項があります。その条項の中に仮に「ホテル側の都合で一方的に解除できる、その際に賠償金は支払わない」というような条項があれば、契約約款上は予約したカップルは何も反論ができません。しかし、この条項の内容はいかにも横暴で、民法に基づいた処理に比べて著しくホテル側に有利な内容となっていますので、約款自体が公序良俗違反(民法90条)だと主張して、約款を無効化し、民法の原則に従って処理することを求められる可能性があります。
一般的には、「やむを得ない理由」がある場合にホテル側からの解除が認められ、賠償金は協議のうえ定める、という内容かと思いますので、オーナーチェンジが「やむを得ない理由」であるかを争って、賠償金の額で折り合いをつける流れになることが多いと思われます。

謎の解決金10万円

今回のケースでは雅叙園東京はキャンセルした相手に解決金10万円を提示していると報道されています。しかし、なぜ10万円なのか、約款に基づく金額なのか不明です。この場合、10万円の根拠を問いただした上で、実質的に結婚式の解除でどんな損害が生じているかを整理して金額を増額させる交渉は可能なように思います。例えば、同じ日程で他の同水準の式場を抑えられない場合、日程を変える必要があります。そうすると、参列者の予定も大きく狂いますし、人数や宿泊費の負担、引っ越し時期の変更など、考えれば色々と具体的な損害は浮かんでくるのではないでしょうか?
また、結婚式は一生もののイベントであることから、若干の慰謝料も合わせて請求して問題ないかと思います。最終的には、10月以降の結婚式の開催を雅叙園東京に要求することは難しいと想定されるため、ここの金額の増額で折り合いをつけるしかなさそうです。
裏を返せば、叙園東京側は180組あると言われるこうした予約相手から解決金の上乗せを一斉に請求されるリスクがあり、その総額は億を超える可能性があります。

設備に問題がなければ既存の予約は守るのが通常の対応

このケースですが、設備の老朽化が進んでおり改修を早める理由があるのであればともかく、オーナーチェンジによる方針変更だけでは、既に引き受けた予約を一方的にキャンセルするのは乱暴な対応で、たとえ約款に記載があったとしても訴訟になると厳しい展開になることが想定されます。
このような場合、例えば1年後の予約など、同じ期日で他の式場が容易に探せるような方にはキャンセルを打診してもよいでしょうが、今から他を探せない方の予約は守るのが契約当事者の責務であり、予約すべてを守る義務まではないものの、こうした他の施設への変更が難しい範囲内の予約はすべて履行してから改装に踏み切るのが正しい対応です。

風評リスク

雅叙園東京の負うリスクは金銭リスクだけではありません。当然、契約を一方的に解除するような施設はそれだけで信用を失います。たとえ改装により内装が華美になったとしても、こうして騒動となって報道されるとネガティブなイメージが拡散され、ありもしないネガティブな事実が流布されるなど、想定以上に厳しい風評リスクを背負い、今後の集客が難しくなるかもしれません。今回のケースでは、ネガティブな内容でネットニュースで報道されたことが拡散され、後々までデジタルタトゥーとして風評被害が続くことが一番懸念されるリスクになるでしょう。

まとめ

このケースは、もう結婚式を守ることは難しく、金銭解決すべきフェーズに入っていそうですが、結婚式という一大イベントを台無しにしたことによって雅叙園東京が想定する以上に批判や遺恨が残るかも知れません。一度とった予約はできる限り守り切るのが継続企業の常識的な対応です
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