営業はプッシュするよりもプル戦略を重視せよ【ITストラテジスト×MBAが解説】

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新規事業は営業が要

新規事業を立ち上げたり、新商品を市場に投入したりする際、事業の成否を左右する重要な活動の一つが営業です。どれほど優れた商品やサービスを開発しても、その存在を知ってもらえなければ、顧客が購入を検討する機会は生まれません。特に、実績や知名度が十分ではない企業にとっては、まず市場との接点をつくり、自社や商品の存在を認識してもらうことが欠かせません。

新規事業では、既存事業のように過去からの顧客基盤やブランド力を活用できないケースも少なくありません。そのため、営業活動によって新たな顧客との接点をつくる必要があります。事業を始めたばかりの段階では、営業の質と量が売上だけでなく、その後の事業の成長速度にも大きく影響します。

営業という言葉からは、電話による営業、訪問営業、ダイレクトメールなどを思い浮かべる人も多いでしょう。これらは企業側から顧客に直接働きかける、いわゆるプッシュ型の営業です。短期間で多くの人に情報を届けられるという側面がある一方で、情報があふれる現代では、顧客に届いたとしても関心を持ってもらえないことがあります。

顧客が自分に必要な情報を自ら探し、納得したうえで商品やサービスに関心を持つという購買行動が広がる中で、営業のあり方も変化しています。企業側が伝えたいことを一方的に発信するだけではなく、顧客が何を求め、どのような情報に価値を感じているのかを踏まえた活動が重要になっています。営業に必要なのは、押し出す力だけではなく、顧客を自然に引き寄せる力でもあります。そこで本稿では、プル型営業の意義と展開方法を解説します。

プル型営業の具体例

プル型営業とは、企業側から顧客に直接商品を売り込むのではなく、顧客が自ら情報を探し、関心を持つ過程で企業や商品にたどり着くようにする営業手法です。その代表的な手段として、ウェブサイトのSEO対策、SNSによる情報発信、利用者から広がる口コミなどがあります。これらに共通しているのは、企業が情報を一方的に押し付けるのではなく、潜在顧客の行動や関心に合わせて接点をつくる点です。

現代の顧客は、何か必要なものがあれば、まずインターネットなどを通じて情報を収集することが多くなっています。その際に求めているのは、必ずしも特定の商品名ではありません。自分が抱えている問題や疑問を解決するための情報を探していることもあります。プル型営業では、こうした潜在顧客が必要としている情報を適切な形で提供し、その情報への関心を通じて企業や商品を知ってもらうことが重要になります。

そのため、プル型営業の出発点は、どのような人が潜在顧客となり、その人たちが何に困り、何を知りたがっているのかを明確にする必要があります。顧客像が曖昧なままでは、発信する情報も焦点がぼやけてしまいます。潜在顧客を具体的に定義することで、必要とされる情報の方向性が見えやすくなり、営業活動の精度も高まります。

また、同じ内容を伝える場合でも、見せ方によって顧客の反応は変わります。情報量、表現方法、発信する場所、伝える順序などを調整しながら、顧客に届きやすい方法を探る必要があります。プル型営業は、一度情報を発信すれば終わりというものではなく、反応を確認しながら改善を重ねていく活動です。顧客の関心を正確に捉え、必要な情報を適切な形で届けるための試行錯誤を継続することが、プル型営業を機能させる重要な条件となります。

ニーズがあるから売りやすい

プル型営業の大きな特徴は、もともと一定のニーズを持っている人との接点をつくりやすいことです。プッシュ型営業では、企業側が顧客候補を探し、その人に商品やサービスへの関心を持ってもらうところから始める場合があります。一方、プル型営業では、何らかの課題を感じたり、必要な情報を探したりしている人が、自ら情報を求める行動を取っています。そのため、企業との接点が生まれた時点で、すでに一定の関心や必要性が存在している可能性があります。

営業活動において、相手にニーズがあることは非常に重要です。必要性を感じていない相手に商品を紹介する場合、まず「なぜ必要なのか」を理解してもらわなければなりません。しかし、すでに問題意識や購入意欲を持っている相手であれば、営業活動はそのニーズに対して適切な情報を提供することに集中できます。顧客が求めているものと企業が提供する価値との距離が近いため、営業の成果につながりやすくなります。

さらに、顧客のニーズを把握できれば、その理解をより深めることも可能になります。ニーズは一つの大きなまとまりではなく、顧客の置かれている状況や優先順位によって細かく異なります。顧客が何を重視しているのかを丁寧に理解することで、発信する情報や提案する内容をより的確なものにできます。

無名の若い企業であっても、この点は大きな強みになり得ます。知名度や営業人員が十分でなくても、顧客ニーズを深く理解し、それに応える情報を継続的に発信することはできます。大企業と同じ規模で市場に働きかける必要はありません。むしろ、自社が向き合う顧客のニーズを明確にし、その理解を深化させることで、限られた経営資源でも効率的に営業活動を展開できます。顧客が何を必要としているのかを正確に捉える力は、新しい企業が短期間で売上を伸ばすための重要な基盤になります

嫌味がない

営業活動では、商品そのものの価値だけでなく、顧客がどのような気持ちでその商品と出会ったかも重要です。プッシュ型営業は、企業側から積極的に働きかけるため、顧客によっては時間を奪われたと感じたり、突然売り込まれたことに抵抗を感じたりすることがあります。たとえ商品やサービス自体が優れたものであっても、接触の仕方によっては、顧客が素直に関心を持てなくなることもあります。

現代では、顧客は日常的に膨大な量の広告や営業情報に接しています。その中で、押し売りをされているという印象を持たれてしまえば、企業や商品の評価にも影響しかねません。営業活動は本来、顧客に価値を伝えるためのものですが、伝え方によっては価値そのものが届きにくくなるという難しさがあります。

その点、プル型営業には、顧客が自ら情報を探す過程で企業や商品を見つけるという自然さがあります。企業から強く購入を迫られるのではなく、顧客自身の探索活動の中で必要な情報に出会うため、心理的な抵抗感が生じにくくなります。顧客にとっては、自分が必要としているものを探している際に有益な情報を見つけられるため、営業を受けたというよりも、役立つ情報を得られたと感じることもあります。

こうした嫌味のなさは、企業と顧客の関係を築くうえでも重要です。一度の販売だけを目的に強く働きかけるのではなく、顧客の意思や行動を尊重しながら接点を持つことができるからです。顧客が自ら選択したという感覚を持てることは、企業への信頼や納得感にもつながります。事業活動を中長期的に継続していくためには、一時的な売上だけではなく、顧客からどのように受け止められるかも無視できません。自然な形で価値を知ってもらい、必要な人との関係を積み重ねられることは、プル型営業が持つ大きな利点です

コスパが良い

営業活動には、少なからずコストがかかります。プッシュ型営業では、営業担当者が顧客候補に直接働きかけるため、人件費や移動時間などの人的コストが発生します。また、郵送物や広告媒体などを利用する場合には、物理的な費用も必要になります。多くの顧客候補に接触しようとすればするほど、営業活動に投入する経営資源も大きくなる傾向があります。

しかし、営業活動にコストをかけたからといって、必ずしも成果が得られるとは限りません。特に経営資源が限られている新規事業や中小企業にとって、成果が不確実な営業活動に過度なコストを投じることは大きな負担になります。営業の量を増やすことだけではなく、どれだけ効率よく顧客との接点をつくれるかを考える必要があります。

プル型営業にも、情報を作成したり、発信方法を検討したりするための時間と労力は必要です。また、顧客の反応を見ながら内容を改善する試行錯誤も欠かせません。それでも、営業担当者が一人ひとりに直接接触し続ける方法と比べれば、コストを抑えながら活動できる可能性があります。一度整えた情報発信の仕組みが継続的に顧客との接点を生み出せば、投入した労力が長期間にわたって営業効果を発揮することも期待できます。

プル型営業の魅力は、短期的な費用だけではなく、中長期的な費用対効果を考えやすい点にもあります。発信した情報や蓄積した顧客理解は、継続的な営業活動の資産になり得ます。試行錯誤を重ねて顧客に届く方法を見つけ、それが軌道に乗れば、営業活動を積み重ねるほど成果が安定していく可能性があります。限られた経営資源を有効に活用するという観点では、非常にコストパフォーマンスの高い営業手法です。営業にかけられる資源が限られているからこそ、長く成果を生み出せる仕組みを意識することが重要になります。

まとめ

新規事業や新商品の販売において、営業は市場と顧客を結びつけるために欠かせない活動です。しかし、営業とは顧客に商品を強く売り込むことだけを意味するものではありません。情報があふれ、顧客自身が必要な情報を主体的に探す現代では、企業側から一方的に働きかけるプッシュ型営業だけに依存することは、必ずしも効率的とはいえません。

プル型営業では、潜在顧客が何を求めているのかを理解し、その人たちが必要とする情報を適切な形で提供することが基本になります。すでに何らかのニーズを持つ人との接点をつくりやすいため、営業活動をより効果的に進めることができます。また、顧客自身が情報を探す過程で企業や商品に出会うため、押し売りのような印象を与えにくく、自然な関係を築きやすいという特徴もあります。

さらに、プル型営業は、限られた経営資源を有効に活用したい企業にとっても有力な選択肢です。情報発信や仕組みづくりには継続的な改善が必要ですが、うまく機能すれば中長期にわたって営業成果を生み出すことが期待できます。一時的に大量の人員や費用を投入するだけではなく、顧客との接点を継続的に生み出せる仕組みを持つことは、事業の安定にもつながります。

もちろん、すべての営業活動をプル型に切り替える必要があるわけではありません。しかし、営業活動の中心に「顧客が求めているものを理解し、自然に選ばれる状態をつくる」という発想を置くことは、今後ますます重要になるでしょう。売りたいものを押し出すことよりも、顧客が欲しいと思ったときに見つけてもらえる存在になることが、持続的な営業成果への近道となります。

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