同じ名刺をたくさんもらってませんか
起業を志す人にとって、人脈づくりは成功を左右する重要な要素です。その出発点として、名刺交換は欠かせない基本的な活動といえます。交流会やビジネスセミナー、勉強会などでは、参加者同士が名刺を差し出すことが一つの儀式のように行われています。初めて会う人との会話を切り出すきっかけにもなり、また自身の存在を相手に伝える手段でもあるため、多くの人が積極的に名刺を配っています。
しかし、名刺交換が目的化してしまっているケースは少なくありません。手元に残るのは大量の名刺の束ですが、よく見てみると同じ人から何度も名刺をもらってしまっている場合もあります。これは、イベントの場で出会った人の名前や顔を覚えておらず、再び会った際に「はじめまして」と名刺を差し出してしまうパターンです。こうした状況は、人脈を築くどころか「この人は前に会ったのに覚えていないのか」と相手に悪い印象を与えることさえあります。
名刺交換の本来の目的は、カードを集めることではありません。その後に必要な場面で助け合える関係をつくることにあります。いざ自分が困難に直面したときに「そういえばあの人に相談できる」「あの分野ならこの人が詳しい」と思い出せることこそ、人脈の価値です。そのためには、名刺交換の数にこだわるよりも、短い時間でどれだけ相互理解を深められるかに重きを置くべきです。
起業を志す人が意識すべきは「顔と名前を一致させ、相手の強みを理解する」ことです。単なる形式的な交換で終わらせず、「この出会いが今後の自分の事業にどうつながるか」を考えながら臨むことで、名刺交換は生きた人脈形成の第一歩となります。
「思い出せない」では意味がない
大量の名刺を受け取っても、後から見返したときに「この人は誰だったか思い出せない」という状況に陥ることは珍しくありません。顔が思い浮かばない、会話の内容を覚えていない、あるいは印象に残っていない。そうなると、その名刺は単なる紙切れに過ぎなくなってしまいます。
この問題は自分が相手に対しても同じように起こり得ます。もし相手にとって自分が「思い出せない人」であれば、将来的に連絡をもらうことも、仕事を打診されることも期待できません。起業家にとってこれは大きな機会損失です。したがって、名刺交換の場で「いかに記憶に残るか」「いかに相手を覚えるか」が大切になります。
まず相手を覚えるためには、その場の会話を軽視してはいけません。肩書きや会社名だけでなく、相手がどんな業務を得意としているのか、どんな顧客層を相手にしているのかを把握するよう努めましょう。その上で、名刺の裏に簡単なメモを残しておくと、後から見返したときに記憶を呼び起こしやすくなります。
一方で、自分を印象づける努力も欠かせません。例えば「〇〇業界に挑戦している」「△△分野で顧客の課題を解決している」といった、自分の強みや方向性を端的に伝えることで、相手に鮮明なイメージを残すことができます。ありふれた自己紹介では埋もれてしまうため、相手の記憶に残るようなフレーズを準備しておくのも効果的です。
「思い出してもらえる関係」を築くことこそ、名刺交換の最大の目的です。起業に必要な人脈は、こうした小さな工夫の積み重ねによって形作られていきます。
わからなければ聞く
名刺交換の場では、相手の仕事内容や強みが分かりにくいことも多くあります。同業者であっても詳細な専門分野は異なりますし、異業種の人であれば何をしているか見当もつかない場合もあります。そんなときに役立つのは「分からないことをその場で質問する」姿勢です。
例えば、同じ業界に属する人と名刺交換をする際には「具体的にどんな領域に注力しているのか」「顧客のどの課題に特に強みを発揮しているのか」といった質問をしてみましょう。同じ業種であっても、マーケティングに強い人もいれば、技術や研究に特化した人もいます。質問を重ねることで相手の個性が見えてきますし、相手にとっても「自分の強みをしっかり聞いてくれる人」という印象を持ってもらえるのです。
一方で、異業種の人と名刺を交換する場合は、話を聞き流すだけでは接点を見出せません。むしろ「どんなお客様と接しているのか」「現在力を入れているプロジェクトは何か」といった具体的な質問を通じて、ビジネスの実態を理解することが重要です。そうすることで、自分の活動との意外な接点が見えてくることがあります。たとえば、飲食業界の人と不動産業界の人が会話をする中で「店舗開発」という共通点が浮かび上がり、協力関係につながることもあります。
質問をすることは決して失礼ではなく、むしろ「相手に関心を持っている」証拠です。相手の言葉を引き出し、理解を深める姿勢が、名刺交換を単なる形式から有意義な交流へと変えていきます。
相手をどのように活用するかイメージする
名刺交換をしても、その後に何もしなければ関係は自然に途絶えてしまいます。人脈を本当に価値あるものにするためには、相手の活用方法を具体的にイメージすることが欠かせません。
ビジネスは一方的な依頼や期待だけでは成り立ちません。与えたものが巡り巡って返ってくる、いわゆるギブアンドテイクの関係で成り立っています。そのため、名刺を整理する際には「この人にどんな仕事を依頼できるか」「どの顧客に紹介できるか」を具体的に想像してみる必要があります。
例えば、士業の人と出会った場合には、自分の顧客が契約書で困っているときに紹介できるかもしれません。デザイナーと出会った場合には、新しい商品やサービスを立ち上げる際に相談できるかもしれません。このように、相手の得意分野と自分や顧客のニーズを結びつけて考えることが、人脈の実用性を高める鍵となります。
このイメージができると、再会の機会も自然と増えていきます。顧客からの要望があったときに「そういえばあの人がいた」と思い出し、連絡を取るきっかけになるのです。単なる名刺の交換に終わらせず、未来の協力場面を意識することで、人脈は時間をかけて価値を増していきます。
実際に仕事を依頼してみる
相手の活用方法をイメージしただけで終わってしまう人も多いですが、それでは人脈は生きません。実際に一歩踏み出し、名刺交換した相手に仕事を依頼してみることが重要です。
自分では不得意なことや、時間を割けない業務を相手に任せることで、顧客にとってより質の高いサービスを提供できます。これは起業家にとって大きな武器になります。顧客の満足度が上がれば、自分の信頼度も高まり、次の仕事につながります。
実際に依頼をしてみると、名刺交換だけでは分からなかった相手の強みや仕事のスタイルが見えてきます。スピード感がある人、丁寧さが際立つ人、提案力が豊かな人など、実際に仕事を通じてこそ知れる特性があります。逆に、不得意な部分も見えてきますが、それも含めて「この人にはこの仕事をお願いするのが適切だ」と判断できるようになります。
さらに、相手に仕事を依頼することで「この人は本当に信頼して任せてくれる」と感じてもらえれば、逆に相手からも依頼が返ってくる可能性が高まります。こうした双方向の関係が広がっていけば、自分のネットワークは単なるつながりの集合体ではなく、実際に利益を生み出す協力体制へと進化していきます。
まとめ
名刺交換は、起業に向けた人脈形成の入口に過ぎません。数を集めることを目的にしてしまえば、同じ人から何度も名刺を受け取るような無駄が生じます。大切なのは、交換した後に「相手を思い出せること」「自分を思い出してもらえること」です。そのためには、名刺交換の場で積極的に質問をし、相手の特徴を把握するとともに、自分自身を印象づけることが欠かせません。
また、交換後には名刺を整理しながら相手をどう活用できるかをイメージし、実際に仕事を依頼することで人脈は生きたネットワークへと成長します。このプロセスを踏むことで、名刺交換は単なる儀式ではなく、起業家にとって大きな財産となります。仕事はギブアンドテイクが基本で待っているだけでは仕事は舞い込んできません。名刺交換という機会は、自分の不得手な仕事を他人に任せて、逆に自分の得意な仕事を回してもらう活動ととらえ、相手をよく知り、相手に名刺交換後も積極的にアプロ―チする姿勢が大事です。
当研究所では、こうした人脈形成も含めた起業活動全般をサポートしています。下記よりお気軽にご相談ください。


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