再生活動は大げさに始めがち
事業再生や地域再生を始める際には、なぜか最初から大きな活動にしようと考えがちです。再生という言葉には、それまでの状態を大きく変え、新しい仕組みを作り直すという印象があります。そのため、最初から多くの関係者を集め、大規模なプロジェクトとして動き出そうとする傾向があります。関係者が多ければ多いほど、知恵も労力も集まり、再生を実現しやすくなるように感じるからです。
しかし、再生活動では、通常の事業活動以上に迅速な判断が求められます。状況が悪化している場合には、時間そのものが重要な経営資源になります。ところが、参加者が多いと、一つの方針を決めるだけでも説明、協議、修正、再確認という手順が積み重なります。その結果、議論は活発なのに、実際の行動が進まないという状態になりかねません。
また、参加者が多いことによって、責任の所在が曖昧になる問題もあります。誰かが決めるのではなく、全員で決めようとすると、最終的に誰が責任を持つのかが不明確になります。再生活動では、判断の結果が良かったか悪かったかを確認しながら、必要に応じて方針を修正することが重要です。そのためには、意思決定を担う人物が明確でなければなりません。再生に関係する人をすべて初期段階からコアメンバーにしてしまうのではなく、まずは中核となる人数を限定し、判断と行動の速度を確保することが大切です。
そこで本稿では、再生活動の第一歩はコアメンバーを絞ることであることを解説します。
船頭多くして船山に登る
地域再生を目指して地域住民を多数巻き込んだ場合、再生のための方策については実に多くのアイディアが出てくるでしょう。多様な意見が出ること自体は悪いことではありません。むしろ、再生の可能性を考えるうえでは、さまざまな視点が存在することには価値があります。しかし、問題は、そのアイディアを意思決定の場にそのまま持ち込んでしまうことです。参加者がそれぞれ自分の考えを強く主張し始めると、議論は次第に「何が最も効果的か」ではなく、「誰の案を採用するか」という争いに変わってしまいます。
特に、自分が考えた案には強い思い入れが生まれます。その案を否定されると、自分自身の考え方や地域への貢献まで否定されたように感じることがあります。その結果、本来なら一つの目的に向かって議論するはずだった人たちが、それぞれの案を守ることに力を使うようになります。
これは、まさに「船頭多くして船山に登る」という状態です。船を目的地に進ませるには、方向を決める人が必要です。船頭が一人であれば、少なくとも進む方向についての最終判断は明確です。ところが、船頭が何人もいて、それぞれが違う方向を指示すれば、船は前に進むどころか、操船そのものに力を使い果たしてしまいます。
そのため、意見を広く集めながら、最終的な判断は少人数で行うという分離が重要になります。限られた人数の中で各人の役割と責任を明確にし、必要な議論を深めることができます。再生活動では、意見の多さよりも、決定したことを実行できる仕組みのほうが重要です。多数の人を意思決定に参加させることが、必ずしも再生の力になるとは限らないのです。
絶対に必要な集客リーダー
再生を実現するうえで、最も重要な要素の一つが集客です。事業であれ地域であれ、人が集まらなければ活動や商品、サービスに継続的な価値を生み出すことは困難です。どれほど魅力的な商品を作っても、どれほど立派な施設を整えても、利用する人が増えなければ、再生の原動力にはなりません。
ところが、集客については「みんなで考えれば何とかなる」と考えられがちです。しかし、集客はアイディアの数だけで結果が決まるものではありません。誰に、何を、どのような方法で伝え、どの段階で行動を促すのかを設計しなければ、実際の成果にはつながりにくいからです。
特に再生局面では、失敗を繰り返している時間的余裕がありません。集客施策を実施して反応を確認し、改善を繰り返すことは必要ですが、最初の施策から精度が低ければ、限られた資金や人員を浪費することになります。再生活動では、何をするかだけではなく、どの程度の確度で実行するかが重要になります。
その意味で、集客の実績があるスペシャリストを再生計画の中核に置くことには大きな意味があります。経験者は、単に企画を考えるだけではなく、顧客がどのような情報に反応するのか、どのような導線で行動するのか、どこに無駄が生じやすいのかを判断できます。経験によって培われた判断力は、会議の中で出される一般的なアイディアとは性質が異なります。
集客リーダーには、単なる広告担当者としてではなく、再生活動の中心的な役割が求められます。再生のために何を変えるべきなのかを考え、その変化を顧客に届け、実際の集客につなげる役割です。こうした専門性を持つ人を中核に据えることで、再生活動における議論を「思いつき」から「成果を生み出すための判断」へ変えていくことができます。
次に必要な財務のスペシャリスト
再生活動の基本は、現在の状態を正確に把握し、問題の原因を見極め、その原因を改善することです。単に売上を増やすことだけが再生ではありません。なぜ業績が悪化しているのか、どこで資金が失われているのか、どの活動に経営資源が偏っているのかなど、事業全体を数字で把握する必要があります。
改善活動を進めるうえでは、実行した施策が本当に成果を生んでいるのかを確認しなければなりません。売上が増えたとしても、それだけで再生が進んでいるとは判断できません。利益がどう変化したのか、資金繰りへの影響はどうなのか、投入した経費に対してどの程度の成果が得られたのかなど、複数の数値を確認する必要があります。
ここで重要になるのが財務の専門家です。財務のスペシャリストは、単純な売上や利益の増減を見るだけではなく、数字の構造を確認しながら事業の状態を判断します。再生活動では、感覚的には「良くなっている」と思える状況でも、実際の数字を見ると改善が十分ではない場合があります。
再生では、このような認識のずれをできるだけ減らす必要があります。集客を担当するリーダーが積極的に改善を進めるとしても、その成果を客観的な数値で検証する役割がなければ、施策そのものに対する評価が主観的になりやすくなります。財務担当者は、実行された施策を数字の面から検証し、継続すべきものと見直すべきものを判断する材料を提供します。
こうして考えると、再生活動の中核には、集客について高度な専門性を持つ人と、財務について高度な専門性を持つ人を置くことが合理的です。前者が成果を生み出す活動を進め、後者がその成果を数字で検証することで、再生活動を感覚だけに頼らず進められる体制になります。少人数であっても、異なる専門性を持つ人材が組み合わされていれば、再生活動の意思決定は大きく安定します。
他は必要に応じて
再生活動を成し遂げるためには、さまざまな人の協力が必要になります。事業であれば、現場で働く従業員、取引先、金融機関、専門家など、関係する人は多岐にわたります。地域再生であれば、住民、事業者、行政、各種団体など、多くの主体が関係します。そのため、最終的には幅広い協力を得ることが重要になります。
しかし、すべての人が同じ程度に意思決定へ関与する必要はありません。ここを区別することが、再生活動を効率的に進めるうえで重要です。必要な情報を提供してもらう人、専門的な作業を担う人、実際に活動を支える人、そして再生の方向を決定する人では、求められる役割が異なります。それぞれを同じ「メンバー」として扱う必要はないです。重要なのは、必要な能力を必要な場所に配置し、決めるべきことを速やかに決められる状態を作ることです。
そのため、意思決定については、絶対に必要な人に限定するという考え方が有効です。再生に直接的な責任を持ち、重要な判断を行う人は少数に絞ります。一方で、実際の再生活動については、必要な場面に応じて多くの人の力を借ります。この二つを分けて考えることで、意思決定のスピードと活動の広がりを両立させることができます。
もちろん、再生が進めば、必要となる協力者は増えていきます。実際に施策を実行する段階では、より多くの人材や組織の力を借りる必要が出てくるでしょう。しかし、それは最初から全員を意思決定の中に入れることとは違います。まずは中核となる人が責任を持って判断し、必要になった段階で適切な協力者を加えていくほうが、組織としての機動力を保ちやすくなります。
最終的には多くの人を巻き込むことになったとしても、それは最後で構いません。再生活動では「最初から大勢」ではなく、「必要になったら必要な人を加える」という発想が重要です。人数を増やすことよりも、誰を中核に置くかを慎重に見極めることが、限られた資源を有効に使うことにつながります。
まとめ
再生活動では、最初から多くの人を集めれば成功しやすくなるとは限りません。むしろ、再生に必要な判断を迅速に行うためには、コアメンバーを絞り込むことが重要です。人が増えれば知恵や労力が増える一方で、意見の調整や意思決定に必要な時間も増えます。再生という限られた時間の中で成果を求められる活動では、この負担を軽視できません。
特に意思決定を担うメンバーについては、本当に必要な人だけを選ぶことが大切です。多数の人から意見を集めることと、多数の人に判断を委ねることは別です。広く意見を取り入れながら、最終的な判断は少人数で行うことで、再生活動の方向性を明確に保ちやすくなります。
また、再生活動では、人数よりも専門性が重要になります。集客については、実績と経験を持つ人材を中心に置き、思いつきの多さではなく、成果につながる施策を見極めることが必要です。さらに、実施した活動の成果を数字で検証するためには、財務の専門家も欠かせません。集客と財務という異なる専門性を持つ人が中核となれば、行動と検証を組み合わせながら再生を進められます。
一方で、それ以外の人の協力を排除する必要はありません。再生活動が進めば、さまざまな人の力が必要になります。ただし、その人たち全員をコアメンバーにする必要はありません。意思決定を担う人と、必要に応じて協力する人を分けることで、組織の機動力を維持できます。
再生に必要なのは、巨大な組織を最初から作ることではありません。誰が中核として責任を持つのかを明確にし、その少人数が迷わず判断できる環境を整えることです。そして、必要になった段階で適切な人を加えていけばよいのです。再生活動では、人を集めることより、人を絞ることのほうが難しいからこそ重要です。
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