「兼務」はやめたほうがいいこれだけの理由

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企業内において「兼務」が増加傾向

近年、多くの企業で「兼務」の機会が増えています。かつては一人ひとつの部署に所属し、特定の業務に専念することが一般的でしたが、現在は異なる部署やプロジェクトをまたいで業務を担う「兼務体制」が目立つようになってきました。
この背景には、経済環境の変化や働き方の多様化、人材の流動性の高まりなどが影響しています。特に中小企業やベンチャー企業では、人員が限られていることから、ひとりの社員に複数の役割を求めるケースが顕著です。また、テレワークやオンラインツールの普及により、物理的な移動を伴わずに複数のチームと連携できるようになったことも、兼務を後押しする要因となっています。
一見すると柔軟性があり、効率的に見えるこの働き方ですが、実際に兼務を経験した多くの人からは、「思っていたより大変だった」「業務の境界が曖昧で混乱した」という声が多く上がっています。そこで本稿では、兼務のメリットとされる点を確認しつつ、なぜ兼務をやめたほうがいいのか、その理由について深掘りしていきます。

企業・従業員ともにメリットはある

兼務が増えている理由として、企業側と従業員側の双方に一定のメリットが存在することは否定できません。
企業にとっては、慢性的な人手不足や突然の退職者が出た際の「穴埋め」として、すでに業務を理解している社員に別部署の仕事を任せることで即戦力を確保できます。新たに人材を採用する手間やコストを省ける点も、兼務の魅力といえるでしょう。また、社内のリソースを柔軟に再配置できるため、組織全体の機動力も高まります
一方で従業員にとっても、兼務によって仕事の幅が広がることは一定の利点です。異なる部署の業務を経験することで、自身のスキルセットを広げることができ、将来的なキャリアパスの選択肢が増えるかもしれません。また、複数の視点から業務を見ることで、業務全体の流れを俯瞰できる力が養われるという評価もあります。

命令系統や評価方法に混乱が生じる

兼務最大の問題点の一つが、命令系統の混乱です。A部署とB部署の両方に所属している場合、どちらの上司からの指示を優先すべきか、迷う場面が少なからず存在します。場合によっては、同じタイミングで両部署からタスクを振られ、優先順位の判断に苦慮することになります。
また、評価制度においても不透明さが生じがちです。A部署では高く評価されていても、B部署ではあまり貢献できていなかった場合、全体としての評価がどうなるのかが不明確で、不満を抱く要因になります。逆に、両部署ともに高い成果を上げているにも関わらず、それが正当に評価されないケースもあります。
このように、命令系統や評価基準が曖昧になることで、従業員のモチベーションは下がりやすくなり、組織全体の士気にも影響が出かねません。明確なルールや制度が整っていない状態での兼務は、かえって混乱を招く危険性が高いのです。

複数の部署の現状に合わせる必要があるためスケジュール管理が難しい

次に問題となるのが、スケジュール管理の難しさです。兼務する部署が複数あるということは、それぞれの部署に異なる進行状況や納期、ミーティングスケジュールがあるということです。それらをすべて把握し、うまく調整するのは想像以上に困難です。
たとえば、A部署の重要会議と、B部署のプロジェクトの納期が重なった場合、どちらを優先すべきかの判断が求められます。無理にどちらもこなそうとすれば、時間に追われるばかりか、どちらの仕事も中途半端になりかねません。
また、部署ごとに使用するツールや進捗管理の手法が異なると、それぞれのやり方を覚える必要があり、負担が増します。結果として、目の前の仕事に追われてしまい、計画的に物事を進める余裕が失われていくのです。
兼務におけるスケジュールの難しさは、従業員自身の時間管理能力だけではどうにもならない構造的な課題でもあります。

起用貧乏化し、専門性を磨く機会が失われる

兼務を続けることで、特定の分野に集中する時間が奪われ、結果的に「器用貧乏」になってしまうケースも多く見られます。幅広い業務に関わっているものの、どれも中途半端になってしまい、専門性が身につかないままキャリアが進んでしまうのです。
たとえば、本来であればマーケティングの専門性を深めたかった人が、人事や経理業務を兼務させられることで、スキルの幅は広がる一方、どの分野でも一人前とは言えない状態に陥る可能性があります。このような状況が続けば、将来的に市場価値のある専門性を築けず、転職や独立といった選択肢も限られてしまうかもしれません。
さらに、兼務の負担が大きいと、学習や自己研鑽の時間を確保することも難しくなります。日々の業務に追われることで、セミナーへの参加や資格取得のための勉強など、将来に向けた自己投資の機会が奪われてしまうのです。

まとめ

兼務という働き方には、たしかに企業と従業員の双方にとって一定のメリットがあります。リソースの有効活用やスキルの幅を広げるといった利点は、状況によっては大きな効果を発揮することもあるでしょう。
しかしながら、命令系統の混乱、評価制度の曖昧さ、スケジュール管理の難しさ、そして専門性を磨く機会の喪失といった問題点は、見過ごすことができません。兼務を「柔軟で便利な働き方」として安易に導入してしまうと、かえって組織全体の効率や社員のキャリアに悪影響を及ぼすリスクが高まります。特に、制度や体制が整っていない中での兼務は、従業員に過剰な負担を強いることになりかねません。本来、一人ひとりが専門性を持ち、集中して取り組める環境が整ってこそ、企業の生産性は向上し、社員の満足度も高まるのです。
もし兼務を導入するのであれば、明確な業務分担や評価基準、スケジュール管理のサポート体制を整えた上で行うべきです。そうでない限り、「何でもできるが何も極められない」という悪循環に陥ってしまう可能性があることを、企業も従業員も真剣に考える必要があるでしょう。
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