値上げを恐れてはならない実質的な理由【公認会計士×MBAが解説】

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値上げを恐れてはならない

物価高が続く中、事業者にとって値上げは避けて通れない経営課題となっています。原材料費、仕入価格、物流費、光熱費、人件費など、事業を維持するために必要なコストはさまざまな要因によって上昇します。こうしたコスト上昇を企業努力だけで吸収し続けることには限界があります。本来であれば、上昇したコストの一部または全部を販売価格に反映し、事業を継続できる水準の利益を確保することが必要です。

ところが、値上げに対して強い抵抗感を持つ事業者は少なくありません。価格を上げれば顧客が離れ、販売数量が減り、結果として売上高まで減少するのではないかという懸念があるためです。特に、競合他社が存在する市場では、自社だけが価格を上げることによって「高い会社」という印象を持たれることを恐れ、値上げを先送りしがちです。

しかし、値上げによる売上への影響を考える際には、値上げ直後の変化だけを見て判断するべきではありません。価格が変われば、顧客の購買行動にも一定の変化が生じます。そのため、短期的には販売数量が減少したり、買い控えが起こったりする可能性があります。だからといって、それが中長期的な事業の悪化を意味するとは限りません。

むしろ、コストが上昇しているにもかかわらず販売価格を据え置けば、販売数量が維持されても一つの商品やサービスから得られる利益は縮小します。売上高だけを維持して利益が減り続ければ、設備投資、人材確保、商品開発、広告宣伝などに使える資金も減ってしまいます。結果として、事業の競争力そのものが低下する危険があります。

つまり、値上げをしないことにも明確なコストがあります。値上げは顧客を失うための行為ではなく、事業を継続するために必要な価格水準を取り戻す行為でもあります。価格を上げた瞬間の売上減少だけを恐れて値上げを避けると、かえって長期的に経営を苦しくする可能性があります。そこで本稿では値上げを恐れてはいけない実質的な理由を解説する。

米や卵は一時的に価格が上昇したが・・

価格が一度上昇すると、その後に仕入価格や市場価格が低下したとしても、店頭価格が同じ割合で下がるとは限りません。米や卵の価格変動は、この価格形成の特徴を考えるうえで重要な現象です。

米については、供給不足などを背景として価格が大きく上昇する局面がありました。その後、生産量の増加などによって需給環境が変化すれば、卸売段階での価格が低下することがあります。しかし、卸売価格が下がったからといって、消費者が購入する小売価格まで直ちに同じ水準へ戻るとは限りません。流通、保管、輸送、販売などの各段階には、それぞれ異なるコストが存在するためです。

卵についても、鳥インフルエンザなどによって供給量が減少した局面では価格が上昇しました。その後、供給環境が改善して卸売価格が落ち着いてきても、店頭価格が上昇前の水準まで完全に戻るとは限りません。ここでも、価格は単純に一つの要素だけで決まるものではないからです。

さらに重要なのは、消費者の心理です。日常生活に必要な商品について、価格が上がったとしても購入を完全にやめることは困難です。必要性の高い商品ほど、消費者は価格上昇を受け入れながら購入を続けることになります。そして、一度購入を続けることで、その価格が新しい基準として認識されるようになります。

人は、価格を絶対的な数字だけで判断するわけではありません。以前より高いか安いかを意識する一方で、現在の価格を「普通の価格」として受け入れるようにもなります。価格上昇直後には強い抵抗感があっても、時間が経過すれば、その価格で購入することが日常になります

このことは、値上げを考える事業者にとって重要です。価格上昇の直後には顧客から不満が出たり、購入量が一時的に減ったりすることがあります。しかし、必要性の高い商品については、その価格が継続的に受け入れられる可能性があります。

したがって、値上げの影響を評価するときは、値上げした直後の反応だけを見るべきではありません。価格に対する消費者の認識は時間とともに変化します。価格上昇が一時的な混乱として受け止められ、その後に新しい価格水準が定着することもあります。値上げをした瞬間の反応だけを見て「値上げは失敗だった」と判断するのは、必ずしも適切ではありません。

消費税1%は無意味?

消費者の負担を軽減する政策として、食料品にかかる消費税を1%まで引き下げるという考え方があります。税率が下がれば、同じ本体価格の商品について消費者が支払う総額も下がります。その意味では、消費税率の引下げには一定の価格低下効果があります。

しかし、ここで忘れてはいけないのが、販売価格は税率だけで決まるものではないという点です。事業者は、仕入価格、人件費、物流費、光熱費、店舗運営費など、さまざまなコストを踏まえて本体価格を設定しています。したがって、税率が下がったとしても、事業者が本体価格を引き上げれば、消費者が実際に支払う金額は想定ほど下がらない可能性があります。

極端にいえば、消費税率が下がった分だけ本体価格が上昇すれば、税率引下げによる負担軽減効果は相殺されます。消費者から見れば税金は安くなっているものの、商品そのものの価格が高くなるため、最終的な支払総額は大きく変わらないという構造です。

ここで重要なのは、消費者が価格そのものに慣れていくという点です。消費税率の引下げによって表面的には負担が軽くなっても、本体価格が上昇すれば、消費者は結果として高い価格の商品を購入することになります。そして、その価格での購入が継続されれば、やがてその水準が新たな通常価格として受け入れられていきます。

これは、価格が一度上昇すると元に戻りにくい理由の一つです。消費者が価格上昇を受け入れた後では、企業が価格を維持することに対する抵抗感も小さくなります。反対に、企業側がコスト上昇を理由に価格を引き上げることをためらい続ければ、消費者に価格を受け入れてもらう機会そのものを失うことにもなります。

価格は税率だけで決まるものではありません。市場で形成される本体価格と税負担を分けて考える必要があります。そして、消費者が受け入れる価格水準そのものが変化すれば、税率の変化だけでは実際の負担感を説明できなくなります。

必要なものは売れる

顧客は常に完全に自由な立場で商品やサービスを選択できるわけではありません。生活や事業活動に必要なものについては、価格が上昇したとしても、購入そのものを完全にやめることが難しい場合があります。必要性が高い商品ほど、価格が上がっても一定の需要が残ります。

もちろん、事業者が価格を引き上げれば、顧客が離れる可能性はあります。特に、同じような商品やサービスを提供する競合事業者が存在する場合、顧客はより安い選択肢へ移ることができます。価格差が明確であれば、値上げした事業者から競合へ顧客が流れ、販売数量が減少することもあります。

しかし、社会全体で物価が上昇している環境では、競合事業者もコスト上昇の影響を受けています。自社だけが値上げしている状態と、社会全体で価格水準が上昇している状態では、顧客の受け止め方は大きく異なります。

社会全体の価格が上昇すれば、顧客も次第に新しい価格水準を受け入れます。自社の商品だけが突然高くなった場合には割高感が強くなりますが、社会全体で物価が上がれば、価格上昇そのものが珍しいものではなくなります。その結果、値上げによる顧客離れが長期間続くとは限りません。

さらに、顧客にとって本当に必要な商品やサービスであれば、最終的には購入されます。価格が高くなったからといって必要性まで消えるわけではないからです。顧客は価格を比較しながらも、必要なものについては購入するという選択を続けます。

この点から考えると、事業者にとって重要なのは、売上高を守ることだけではありません。コストに見合った適正な利益を確保し、継続的に商品やサービスを提供できる状態を維持することが重要です。価格を上げることで販売数量が多少減少したとしても、利益率が改善し、経営基盤が安定するのであれば、それは必ずしも悪い結果ではありません。

値上げとは、顧客に負担を押し付ける行為だけではありません。事業を継続し、必要な商品やサービスを社会へ供給し続けるための経営判断でもあります。必要なものは、価格だけではなく必要性によって選ばれます。だからこそ、事業者は過度に値上げを恐れるのではなく、自社の事業を継続できる適正な価格を追求する必要があります

社会のニーズの充足がすべて

事業において最も重要なのは、商品そのものの品質だけではありません。どれほど品質が高く、技術的に優れた商品であっても、それを必要とする顧客が存在しなければ、継続的に販売することは困難です。反対に、社会が強く必要としている商品やサービスであれば、価格が一定程度高くても需要は存在します。

この違いは、事業者が価格を考えるうえで極めて重要です。価格だけを見れば、安い商品ほど購入されやすいように思えます。しかし、顧客は価格だけで商品を選んでいるわけではありません。自分にとって必要か、問題を解決できるか、生活や仕事に役立つかという価値も含めて判断しています。

したがって、事業者が本当に考えるべきなのは、「いくらなら売れるか」だけではありません。「自社の商品やサービスが、社会のどのようなニーズを満たしているのか」を明確にすることです。顧客にとって必要性の高いものになっていれば、価格が多少上昇しても購入する理由が残ります。

物価上昇局面では、この考え方がさらに重要になります。仕入価格や人件費が上昇する以上、従来と同じ価格を維持し続けることには限界があります。そこで価格を維持することばかり考えるのではなく、顧客が何を必要としているのかを見極め、自社の商品やサービスをそのニーズに適合させることが重要になります。

社会のニーズに合った商品やサービスであれば、値上げをしても価値そのものが失われるわけではありません。顧客が感じる価値が価格を上回っている限り、購入する合理性が残ります。反対に、価格に対して価値が低いと判断されれば、値上げをしなくても選ばれなくなります。

結局のところ、事業者が追求すべきなのは、単純な低価格ではなく、社会から必要とされる価値です。必要とされる商品を提供し、その価値に見合った価格を設定することが、適正な利益につながります。社会のニーズを満たすことができているのであれば、値上げそのものを過度に恐れる必要はありません。

まとめ

値上げを恐れる事業者が多いのは、価格を上げれば顧客が離れ、売上が減少するという不安があるからです。しかし、物価上昇が続く環境では、値上げをしないことにも大きな問題があります。仕入価格や人件費などが上昇しているにもかかわらず販売価格を据え置けば、利益が削られ、事業を継続するための余力が失われてしまいます。

また、価格上昇は必ずしも永続的な顧客離れを意味しません。必要性の高い商品やサービスについては、顧客は価格上昇を受け入れながら購入を続けます。時間が経過すれば、上昇した価格そのものが新しい基準として受け入れられることもあります。

重要なのは、価格を上げること自体ではなく、その価格に見合う価値を社会へ提供できているかどうかです。顧客が必要としている商品やサービスであれば、価格だけを理由に需要が消えるとは限りません。逆に、ニーズがなければ、安くしても継続的な販売は難しくなります。

したがって、事業者が目指すべきなのは、何が何でも低価格を維持することではありません。社会のニーズを的確に把握し、そのニーズを満たす商品やサービスを提供し、その価値に見合った適正価格を設定することです。

値上げは、単なる販売価格の変更ではありません。事業者が必要な利益を確保し、従業員を雇用し、仕入先と取引を続け、顧客に商品やサービスを提供し続けるための経営上の選択です。だからこそ、値上げによる短期的な反応だけに目を奪われるのではなく、事業の持続可能性と社会に提供する価値を基準として価格を考えることが大切です

当研究所では企業の価格戦略を網羅的に支援しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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