「伝統的酒造り」がユネスコ文化遺産に来月登録される見通し
日本で500年以上も前に成立した「伝統的酒造り」がユネスコ文化遺産に来月登録される見通しとなっています。ユネスコ文化遺産には「能楽」や「和食」などが既に登録されていますが、日本の伝統酒が登録されると、その作り手が維持され、品質が維持され、輸出増加等による恩恵も期待されます。
しかし、果物の新種が海外に持ち出されて大量生産されたというようなケースもあり、登録後のプロセスには十分に注意が必要です。そこで本稿では、「伝統的酒造り」が登録された後の手続内容と留意点を整理します。
基本は「暗黙知」で承継
ノウハウなどの情報は、人の脳の中で保存される暗黙知と、データファイルなどに表出された経形式知とがあります。「伝統的酒造り」に関しては、原材料の成分割合など、内容を変えるべきものはマニュアル化して形式知として保存すべき反面で、製造方法は形式知のまま承継するのが望ましいと考えられます。紙面などに表出化するとあっという間に情報が拡散され、大量生産されてしまうためです。
この点はコカ・コーラがその製造法を特許申請せずクローズする戦略と似ている面があります。
暗黙知は人を選んで体で覚えさせる
人気の酒の製造法は暗黙知のまま承継すべきで、その手法は実際に酒造りを通じて体で覚えるしかありません。
近年の少子化や、しんどい仕事への敬遠から、こうした仕事の後継者のなり手は減少していますが、ユネスコ文化遺産の登録によって人気の回復も期待されるため、粘り強く後継者が現れるのを待つ必要があります。
国外流出の阻止は絶対条件
「売れる」ものにはいくらでも魑魅魍魎が近寄ってきます。人気の巨峰も、善意で外国人にその種を提供したところ、約束に反して国外に持ち出されて大量生産されてしまいました。
伝統酒も作り方を国外に持ち出されてしまうと国外で大量生産され、日本の伝統産業としては生き残りが厳しくなってしまいます。冷たい感じもしますが、外国人に安易に製法の中核的な内容を伝えるなどの行為は厳に慎むべきでしょう。
法律に頼らないブランド化
伝統酒が、このユネスコ登録でさらに発展できるか否かは「ブランド化」できるか否かにかかっています。ブランド化といえば特許や商標の戦略を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、伝統酒に関してはコカ・コーラのように特許戦略はクローズ戦略が適していますし、商標も、ラベルを変えて販売されると意味がないため、法律による保護には限界があります。
あくまで製法の徹底秘匿と、国産の米などの原材料の厳選でブランド化を目指すべきです。
まとめ
以上の通り、伝統酒のユネスコ登録は喜ばしい事実ですが、今後伝統酒業界を盛り上げていくためには慎重を期したプロセスや対応が必要となります。
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