企業別、人材採用戦略のポイント

コンサルティング

新卒採用の大半が大企業に集中

日本の雇用市場において、新卒採用が大企業に集中する傾向は年々強まっています。厚生労働省や経済産業省の統計を見ても、卒業後に最初に就職する企業の規模として、従業員1,000人以上の企業を選ぶ新卒者の割合が高く、特に大都市圏ではこの傾向が顕著です
背景には、大企業が提供する安定した雇用環境や、福利厚生の充実、さらには知名度の高さなどが挙げられます。学生にとって「安心感」が重要な要素であることを踏まえると、こうした集中傾向は合理的な結果とも言えます。
さらに、大学の就職支援体制やOB・OGネットワークなども、大企業志向を後押ししています。中小企業やスタートアップにも魅力はあるものの、まだ情報の伝達や企業の発信力において大企業には及ばないのが現実です。
では、中小企業には採用活動でつけ入るスキはないのかを本稿では企業の性質毎に場合分けして説明します。

大企業は人的投資をしっかり行っているため成長しやすい

新卒者がまず大企業に就職しようとするもう一つの大きな理由は、大企業が人材育成に対する投資を積極的に行っている点にあります。研修制度の充実、社内ローテーションによる多様な経験の提供、メンター制度などを通じて、社員のスキル向上を図る仕組みが整っています。
また、専門的な業務に触れる機会や、社内での評価制度の明確化なども、新人社員にとってはキャリア形成を考えるうえで大きな魅力です。成長意欲の高い若者にとって、「学べる環境」は選択の決め手になります。
人的投資の背景には、大企業の経営資源の豊富さがあります。教育研修や自己啓発支援に予算を割ける余裕があること、長期的視点で人材を育てる文化が根付いていることなどが、それを可能にしています。こうした育成環境が整っているため、新卒者は大企業で基礎を築こうとする傾向があります。

スタートアップは給料を高くしても即戦力かつ将来の幹部候補がほしい

大企業でスキルと経験を積んだ若手社員が、次のステップとしてスタートアップへの転職を選ぶケースが増えています。特に30代前後になると、自らの裁量や意思決定権を求めて、新しいチャレンジを求める傾向が強まります
スタートアップ企業にとって、こうした即戦力人材は非常に魅力的です。自社に不足しがちな「大企業の仕組みを理解し、実行できる力」を持っており、事業のスケールアップに貢献できると期待されます。そのため、報酬面でも競争力のあるオファーを提示し、幹部候補として迎え入れる動きが活発です。
また、スタートアップ側も資金調達やIPOを見据えた段階において、経営人材やマネジメント経験者を必要としています。人材採用が企業の成長スピードに直結するため、給料面だけでなく、ストックオプションや柔軟な働き方の提供など、多様なインセンティブを用意するケースも増えています。

中小企業は採用難。高齢者などの採用が増加し、企業の存続が危ぶまれるケースも

一方で、中小企業にとって人材確保はますます困難になっています。新卒者や若手人材の確保が難しいことから、シニア層や定年退職者の再雇用に頼らざるを得ない状況が続いています。
もちろん、高齢者には豊富な経験や安定した勤務態度というメリットがありますが、技術革新や業務のIT化への適応という面では課題も少なくありません。特にデジタルスキルが求められる職種では、ミスマッチが顕著になります。
また、若手がいない職場は活気を失いやすく、長期的な視点での事業継承にも支障を来します。後継者不足が企業の廃業につながるケースも全国で増加しており、「人材確保=事業継続」の問題として深刻化しています。
中小企業が採用力を高めるためには、企業の魅力を発信するブランディングや、働きやすい職場づくりといった総合的な戦略が求められます。求人票の書き方ひとつでも反応が変わるため、専門家の支援を得る動きも出てきています。

個人経営企業では採用をあきらめて、仕事量を調整する傾向も

さらに規模の小さい個人経営の企業では、人を雇うという選択肢を放棄し、自らの仕事量を調整するという選択をするケースが増えています。例えば飲食店では、営業時間の短縮や定休日の拡大を通じて、無理のない経営体制にシフトする動きが見られます。
また、業務の一部を外部に委託したり、ITツールを活用して省力化を図ることで、少人数でも回せる仕組みを模索しています。これにより人件費のリスクを減らしつつ、質を保ったサービス提供を実現する努力がなされています。
能力や責任感などの面で希望水準に見合う求人が見込めないのであれば採用を諦めて仕事量を調整することで、サービス水準を維持するという方針は、「会社を大きくしたい」という方には不本意でしょうが、現実的な選択肢です。

まとめ

日本の雇用構造を見ると、大企業・スタートアップ・中小企業・個人経営それぞれが異なる人材採用の課題と戦略を抱えていることが分かります。
大企業は安定と育成投資で若手を集め、その若手が成長してスタートアップへ移動し、より大きな裁量や報酬を求める流れができています。一方で、中小企業や個人経営企業はその波に取り残されがちで、人材確保が難航し、場合によっては事業継続すら危ぶまれる状況にあります。
これからの採用戦略においては、単なる条件提示ではなく、企業の理念や働き方、成長機会をいかに伝えられるかがカギになります。また、全体としての労働力不足という問題に対しては、業種や地域の枠を超えた連携、さらには制度的な支援も求められます。
企業の持続可能な成長のためには、採用戦略も時代に合わせて柔軟に見直していく必要があります。各企業が自社の強みと課題を正しく認識し、適切な人材戦略を構築していくことが、これからの社会にとって極めて重要な課題となるでしょう。
当研究所では、京都大学経営管理大学院で人財投資マネジメントを副専攻で学んだ弁護士・公認会計士・MBA・中小企業診断士が御社の採用戦略を全方位でサポートさせていただきます。下記よりお気軽にご相談ください。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました