半数以上の企業が正社員不足
企業の人手不足が深刻化しています。ある統計では、正社員が不足していると感じている企業が51.3%に達しており、企業の半数以上が必要な人材を確保できていない状況にあります。これは一部の業界だけに限った問題ではなく、幅広い業種に共通する経営上の課題になっています。
背景にあるのは、労働力人口そのものの減少です。少子化が進むことで、新たに労働市場へ入ってくる人の絶対数が少なくなっています。さらに、物価高への対応として賃金を引き上げる動きも強まっています。労働者にとっては、同じ仕事をするのであれば、より良い待遇を受けられる企業を選ぶことが合理的です。しかし、原材料費や光熱費、物流費などの上昇によって企業の利益が圧迫され、十分な賃上げを実施できない企業も少なくありません。賃金を上げたいと思っていても、その原資を確保できなければ、人材獲得競争で不利になってしまいます。
人手不足への対応では、単純に求人を増やせばよいわけではありません。人材が集まらない理由を見極め、その理由に合った対策を講じることが重要です。賃金が問題なのか、仕事内容が問題なのか、勤務時間や働き方が問題なのか、あるいは必要なスキルを持つ人が市場に少ないのかによって、取るべき施策は大きく変わります。人手不足という一つの言葉でまとめられていても、その中身は企業ごとに異なります。そこで本稿では、こうした人手不足に対するケース別の対処法を解説することで、企業が自社の課題に合った人材確保策を考えるための視点を整理します。
賃上げで人手不足が解消した事例
人手不足への対応として、最も分かりやすい施策の一つが賃上げです。特に運輸業界では、ドライバー不足への対応として待遇改善が進められ、人材確保の環境が改善しつつあります。仕事を選ぶ側から見れば、同じ時間を働くのであれば、より高い収入を得られる仕事を選ぶのは自然なことです。そのため、採用競争において賃金水準は極めて重要な要素になります。
トラック運転手の場合、従来から拘束時間の長さや労働量の多さが就労上の大きな負担となっていました。単純に給与だけを比較すれば一定の魅力があったとしても、実際に仕事へ投入する時間や身体的な負担まで考えると、他の職種を選択する人が増える可能性があります。つまり、賃金水準だけを見て人材不足を考えることには限界があります。
そこで重要になるのが、業務そのものの効率化です。AIなどの技術を活用することで、配車や配送ルートの最適化、業務管理などを効率化できれば、同じ人数でもより多くの仕事を処理できる可能性があります。さらに、作業の無駄を減らすことによって、従業員の拘束時間や身体的負担を軽減することもできます。
業務効率が高まれば、企業の収益性を改善する余地も生まれます。収益性が改善すれば、その一部を人件費へ振り向けることが可能になります。結果として、労働者の負担を抑えながら賃金を引き上げるという方向へ進むことができます。
人材を確保するために賃金を上げることは重要ですが、賃上げだけでは企業側の負担が大きくなります。仕事の進め方を見直し、収益性を高め、その成果を待遇へ反映するという循環を作ることができれば、企業と従業員の双方にとって持続可能な人手不足対策になります。働く側から見ても、収入だけでなく、負担の少なさや働きやすさを含めて魅力のある職種になれば、就労を希望する人を増やすことにつながります。
パートの活用で人手不足が解消した事例
人手不足を解消するうえでは、すべての仕事を正社員だけで処理しようとしないことも重要です。特に事務職については、仕事の性質を細かく整理することで、パートタイム人材を活用できる余地があります。事務職は肉体的な負担が比較的軽い一方で、給与水準が高くないことから、フルタイムの仕事として選ばれにくい場合があります。このような職種については、働き方そのものを見直すことが必要です。
まず重要なのは、正社員にどのような役割を求めるのかを明確にすることです。正社員が担当する仕事と、それ以外の人材でも対応できる仕事が曖昧なままでは、事務作業全体が一つの大きな業務として扱われてしまいます。その結果、事務職についてもフルタイム勤務や幅広い対応能力を求めることになり、人材の選択肢を狭めてしまいます。
正社員の責任や権限、判断を伴う業務などを明確にすれば、それ以外の業務についても整理しやすくなります。業務を分解すると、必ずしも高度な判断を必要としない仕事や、一定の手順に従って処理できる仕事が見えてきます。こうした仕事まで正社員に限定する必要はありません。必要な業務を必要な人材に割り振ることで、人材を確保する際の条件を柔軟に設定できます。
特に、育児中の母親など、一定の事務スキルを持ちながら、フルタイム勤務には制約がある人材は少なくありません。勤務できる時間が限定されていることだけを理由に採用対象から外してしまえば、企業は貴重な労働力を失うことになります。
そのためには、事務職に過剰な役割を持たせないことが大切です。電話対応、資料整理、入力作業、定型的な管理業務など、業務の内容を細かく切り分け、パートタイムでも担当できる範囲を明確にします。仕事を限定することで、短時間勤務でも責任を持って働ける環境を整えられます。
人手不足だからといって、一人の採用者に幅広い能力や長時間勤務を求める必要はありません。むしろ仕事を細分化し、それぞれの業務に適した働き方を組み合わせることによって、人材の母数を広げることができます。事務職の人手不足に対しては、仕事そのものをパートタイムで担える形へ整理することが有効な対策になります。
金融・AI人材の不足は深刻
人手不足の中でも、すべての職種を同じ方法で解決できるわけではありません。入社時点で求められるスキルが比較的低い職種であれば、求人条件や勤務条件を見直すことによって、応募者を増やす余地があります。しかし、高度な専門知識や実務経験を必要とする職種では、待遇を改善しただけで必要な人材が簡単に増えるわけではありません。
特に金融やAIに関する人材の不足は深刻です。これらの分野では、専門的な知識だけでなく、実務上の判断力や技術を使いこなす能力も求められます。さらに、専門人材は複数の企業から必要とされるため、採用市場における競争も激しくなります。
こうした人材について注意しなければならないのが、採用できたことだけを成果と考えないことです。高度なスキルを持つ人材は転職市場でも価値が高いため、採用後に別の企業へ移ってしまえば、採用活動にかけた時間や費用が無駄になってしまいます
そのため、高度人材については、外部から即戦力を獲得することだけに依存しない方法も重要になります。企業内にいる従業員の中から、一定の適性や意欲を持つ人を見つけ、必要なスキルを身につけてもらうことです。いわゆるリスキリングを計画的に行えば、企業独自の業務を理解した人材を育成できます。
高度人材の不足は、求人広告の工夫だけでは解決しにくい問題です。外部からの採用と社内での育成を組み合わせ、必要な能力を持つ人材を中長期的に確保する視点が重要になります。特に金融やAIのように需要が急速に高まっている分野では、採用競争だけに頼らず、企業自身が人材を育てる仕組みを持つことが求められます。
計画的な補充と入れ替えを
人手不足の状態では、企業が欲しいと思った人材をすぐに採用できるとは限りません。求人を出してから採用に至るまでには時間がかかり、必要な能力を持つ人材であれば、その期間はさらに長くなる可能性があります。その一方で、企業の内部では従業員の高齢化が着実に進み、転職による人材流出も発生します。採用市場の状況を待ってから人員を補充する方法では、対応が間に合わなくなるおそれがあります。
そのため、人手不足への対応では、人材を必要になった時点で探すのではなく、将来必要になる人数や能力をあらかじめ想定しておくことが重要です。現在の従業員数だけを見て人員計画を立てるのではなく、年齢構成や勤続年数、各従業員が担っている役割などを踏まえて考える必要があります。
特定の従業員にしか処理できない業務が集中している場合、その従業員が退職すると、たちまち業務に穴が開いてしまいます。人手不足の局面では、こうした属人的な業務体制が企業経営上の大きなリスクになります。一人が抜けても業務を継続できるよう、必要な業務を複数の従業員が理解できる状態にしておくことが重要です。
人材の入れ替えについても、単純に退職者を同じ能力の人で置き換えるという発想だけでは不十分です。企業の事業内容や業務環境が変化すれば、必要となる人材の能力も変わります。現在の組織に不足している能力を見極め、その能力を持つ人材を計画的に補充することが、人事戦略として重要になります。
さらに、採用だけでなく、社内での配置転換や育成も含めて人材を動かす必要があります。人手不足の企業ほど、一人の従業員が長期間同じ仕事を続ける前提ではなく、組織全体で人材を循環させる仕組みが必要です。社員の急な退職によって業務が止まる事態を避けるためには、目先の採用活動だけを見るのではなく、将来の人員構成を見据えた計画的な人事戦略を継続することが不可欠です
まとめ
人手不足は、単純に「採用人数が足りない」という一つの問題ではありません。正社員が不足している企業が半数を超える状況ではありますが、不足している人材の種類や不足する原因は企業によって異なります。そのため、すべての企業が同じ採用施策を実施しても、十分な効果を得られるとは限りません。
賃金が人材確保の障害となっている場合には、収益性を高めながら待遇を改善することが重要です。業務の負担が大きい場合には、業務効率化によって働きやすさを高める必要があります。また、フルタイム勤務を前提にしていることで人材の選択肢を狭めているのであれば、仕事を分解し、パートタイムなど多様な働き方を組み込むことが有効です。
一方、高度な専門人材については、採用市場だけに依存することが難しくなります。採用した人材が定着する環境を整えるとともに、社内の人材を育成する視点が必要です。特に専門性の高い分野では、企業自身が必要な能力を明確にし、それを身につける機会を継続的に提供することが、人材確保の重要な手段になります。
さらに、人手不足が常態化する環境では、退職者が出てから補充するという後追い型の人事では対応できません。社員の年齢構成や将来の退職、転職による流出などを踏まえ、必要な人材を計画的に補充していくことが重要です。
人手不足対策で最も避けるべきなのは、人材が足りないという現象だけを見て、採用活動を繰り返すことです。なぜ人が集まらないのか、どの仕事に人が必要なのか、どの能力が不足しているのかを整理し、その原因に対応した施策を選択する必要があります。人手不足は企業経営にとって大きな制約ですが、課題を具体的に分解すれば、採用、待遇改善、業務効率化、働き方の見直し、人材育成など、取るべき対応も明確になります。
当研究所では、持続可能な企業活動のための人材戦略を支援しております。下記よりお気軽にご相談ください。


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