人手不足でどの業界も自転車操業
近年、ニュースや経済記事では「人手不足に苦しむ企業」の話題が頻繁に取り上げられています。建設業、サービス業、物流、飲食業など、あらゆる業界で「人が採れない」「人が定着しない」という悩みが叫ばれています。確かに、企業にとって人材不足は深刻な問題です。必要なスタッフを確保できなければ、業務が回らず、売上にも悪影響が出ます。
しかし、実はこの「人手不足」が引き起こしている本当の問題は、企業よりもむしろ「お金を節約したい顧客」のほうに深刻に影響しているのです。なぜなら、人手不足が進むことで、企業はコストパフォーマンスの低い取引や顧客を選り好みするようになってきており、その中で最も切り捨てられやすいのが「できるだけ安く買いたい」という顧客層だからです。
この問題は、大企業、中堅企業、中小企業、さらにはスタートアップと、企業の規模に関わらず共通して見られる傾向です。本稿では、それぞれの立場から、お金を節約したい顧客がどのように「相手にされにくくなっているか」を見ていきます。
大企業は利益率を重視するため利益率を悪化させる客は受けない
大企業にとって、もはや「売上をどれだけ伸ばすか」よりも「どれだけ効率よく利益を出すか」が重要視される時代になっています。これは、株主や投資家からの圧力によるものです。上場企業であればなおさら、四半期ごとの決算での利益率改善が常に求められます。
そのため、かつては多くの人に広くサービスを提供していた企業であっても、現在では「利益率が低く、手間ばかりかかるお客」を切り捨てる動きが加速しています。たとえば、大量購入や長期契約をしてくれる企業顧客は手厚く対応されますが、値引き交渉をする個人顧客には消極的です。カスタマーサポートもAIチャットやセルフサービス化が進み、人的コストのかかる対応は減らされてきました。
このように、大企業は効率性を重視するあまり、「節約志向の個人顧客」や「安さだけを求める小口顧客」への対応を後回しにする傾向を強めています。
中堅企業は成長率を意識するため安い客は受けない
中堅企業の場合は、大企業のような利益率至上主義ではないものの、将来的な成長を強く意識しています。「これから伸びていく会社」として投資を受けるには、拡大志向と明確なビジョンが必要です。そのため、短期的な売上や低価格の仕事よりも、信頼関係を築ける長期顧客を重視する姿勢が取られるようになっています。
特にBtoBの分野では、「安く発注してくる一見さん」よりも、「継続的に付き合ってくれる企業」や「将来のパートナーとして期待できる顧客」が優先されます。また、人手が足りない中では、すべての顧客に細かく対応するのは現実的ではありません。そのため、対応する相手を選ばざるを得ず、「安さ重視でフラフラする顧客」は自然と後回しになります。
中堅企業にとっても、「安く買いたい」だけの顧客は、人手不足の中であえて時間と労力を割くべき対象とは見なされにくいのです。
中小企業は採用が難しいから安い仕事は受けない
中小企業になると、人手不足の問題はさらに深刻です。そもそも採用自体が困難で、求人を出しても応募が集まらず、たまに採用できても早期離職が相次ぐという状況が珍しくありません。人手不足が慢性化する中で、新規の仕事を取って拡大する余裕がなくなり、むしろ「今の顧客をいかに離れさせないか」に注力せざるを得なくなっています。
このような状況では、「安くしてくれないなら他へ行く」といった顧客に構っている余裕はありません。対応に手間がかかる割に収益につながりにくい節約志向の顧客は、企業にとって「コストばかりかかる相手」と見なされがちです。
つまり、企業側が人手不足で新しい仕事を取る余力がないため、安く済ませたいお客を新規で受け入れることが難しくなっているのです。中小企業であっても、「選ばれる」側になりたいなら、価格だけで判断するのではなく、相手の事情も考慮する必要があります。
安く買い物をするには独立したての小規模企業が狙い目
では、どうしても安く済ませたいお客は、どこに頼ればいいのでしょうか。唯一の頼みの綱は、「開業間もない企業」や「若いスタートアップ」です。こうした企業はまだ顧客が少なく、売上も不安定なため、仕事を選んでいられない状況です。「とにかく実績を作りたい」「口コミを広げたい」という気持ちから、安価な依頼でも積極的に引き受けてくれることがあります。
しかし、この関係も長くは続きません。企業が軌道に乗り始めると、より高単価な仕事、安定した顧客を優先するようになります。成長するにつれて、かつての「安いお客」は徐々に切り捨てられていくのです。
つまり、安く買いたいからといって新興企業に頼っても、いずれは対応されなくなるという現実があります。節約ばかりを求めていると、結局はどこからも相手にされなくなるリスクが高まります。
まとめ
物価高が続く今、誰もが少しでも出費を抑えたいと感じています。家計を守るため、企業経営を安定させるため、価格に敏感になるのは当然のことでしょう。
しかし、その「節約志向」が行き過ぎると、今度は自分が「選ばれない顧客」になってしまうリスクがあります。企業は人手不足の中で、すべての顧客に満足なサービスを提供できるわけではありません。そのため、「手間がかかる割に利益が出ないお客」から順に優先順位を下げていくのは、ある意味で自然な流れなのです。
安く済ませるためには、「値段交渉」や「最安のサービスを探す」だけではなく、自分が企業にとって「付き合いたい相手」になるように心がけることも大切です。たとえば、長期の利用を約束したり、感謝や紹介を通じて企業にとっての価値を提供するなど、関係性を築く努力が求められます。
これからの時代は、「お金を払う側が選ぶ」だけでなく、「お金を払っても選ばれるとは限らない」時代になってきています。その現実を理解した上で、より良い関係性を築ける相手とつながることが、節約以上に重要な価値を生むかもしれません。
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