起業に必要な人の集め方【MBA×中小企業診断士が解説】

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起業は人集めが9割

起業を志す人の多くは、まず「自分の力で形にしなければならない」と考えがちです。確かに、起業家は強い意思と行動力が求められる存在です。資金繰り、商品やサービスの企画、営業活動、広報、人事管理、法務や会計といった細部まで、あらゆる責任が経営者に集中します。こうした重責を担うのは確かに起業家本人ですが、だからといってすべてを一人で行うことは現実的ではありません。むしろ、他者をどれだけ巻き込み、適切に活かせるかが成功の決め手になります。
とりわけ起業初期には、資金力に限界があります。大企業のように給与や福利厚生で優秀な人材を引きつけることはできません。条件面だけでは、経験豊富な人材や専門スキルを持つ人を集めるのは難しいのです。したがって、起業家は自分の事業への情熱や理念、将来の展望を示し、共感してもらうことで仲間を得る必要があります。「この事業に関わることで自分も成長できる」「社会的に意義がある」といった動機付けが、人を動かす大きな要素となります。
また、信頼できる人材を集めるには時間がかかります。たとえ一度会って意気投合したとしても、その場で一緒に起業しようと即決する人は多くありません。人は時間をかけて相手の価値観や行動を観察し、信頼を積み重ねた上でようやく協力を決意します。したがって、起業家は「短期で仲間をそろえる」発想を捨て、地道に人脈を広げ、関係を築く姿勢を持たなければなりません
起業はアイデアや資金だけでなく、何より「人」が成否を分けます。経営者一人の限界を直視し、人を集める努力を最優先に据えることこそ、成功への第一歩です。そこで本稿ではこうした人を集める手法と観点について説明します。

起業前から計画的に幅広い交流を

起業準備において軽視できないのが「人脈づくり」です。人脈といっても、単なる名刺交換や表面的な知り合いを増やすことではなく、将来に協力関係を築けるような信頼関係の土台を作ることが大切です。
例えば、ビジネススクールに通うことには知識習得の意味だけでなく、人脈形成の意義も大きく含まれます。スクールに集まるのは意識の高い社会人や起業志望者が多く、互いに刺激を受けながら協力関係を築きやすい場だからです。また、勉強会や異業種交流会、オンラインコミュニティなども積極的に活用すべきです。こうした場では、自分とは異なる業界やスキルを持つ人と出会えるため、後の起業において思わぬシナジーを生む可能性があります。
重要なのは、ビジネスの全体像を描き切ってから人を探すのでは遅いという点です。例えば「サービスを開発するために優秀なエンジニアを探そう」と思っても、必要なタイミングで理想的な人材が現れる保証はありません。むしろ、普段から幅広く接点を持ち、その中で「この人となら将来一緒にやってみたい」と思える関係を育てておくことが必要です
特に専門人材の確保は容易ではありません。会計、法律、システム開発、デザインなど、事業を支えるには高度な専門スキルが不可欠ですが、彼らはどこでも求められるため、争奪戦になりがちです。だからこそ、早い段階から彼らとの接点を意識的に作ることが欠かせません。単なる「知り合い」で終わらせず、信頼を積み重ねて「この人となら仕事を一緒にしたい」と思ってもらえるよう関係を育むことが成功への近道です。
つまり、人材集めは「いざ必要になったとき」に始めるのでは間に合いません。起業前から幅広く交流し、時間をかけて関係を築くことが不可欠です。

船頭多くして船山に登らないように

人脈を広げ、優秀な人を集めることは重要ですが、それがそのまま成功につながるわけではありません。組織の初期段階においては「優秀な人が多すぎること」がむしろマイナスに働く場合があります。全員が自分の意見を主張し合い、誰もがリーダーを務めたがれば、意思決定が進まなくなるからです。
起業初期はスピードが命です。市場の変化に迅速に対応し、顧客からの反応を見ながらサービスを修正し続けることが必要です。ところが、意見の対立で会議ばかりが増え、決定が遅れれば、競合に後れをとってしまいます。そのため、意思決定に関わるコアメンバーは慎重に厳選しなければなりません。
具体的には、最終決定権を誰が持つかを明確にし、組織の序列をはっきりさせる必要があります。たとえば「営業の方針は営業責任者が最終判断する」「全社的な戦略は代表が責任を負う」といった具合に線引きを行うのです。また、情報共有のルールも不可欠です。誰が何を把握し、どう報告するのかを決めておかないと、重要な情報が伝わらず誤った意思決定がなされる危険があります。
さらに、起業初期は縦割りの機能別組織として役割を分担することが有効です。営業、開発、バックオフィスといった機能ごとに責任者を配置し、序列を設けることで組織はまとまりやすくなります。権威主義的になる必要はありませんが、役割と責任の明確化はメンバーの安心感を高めます。
結局のところ、起業初期には「優秀さ」よりも「統率のとりやすさ」と「意思決定の速さ」が優先されます。

専門分化せよ

組織がある程度安定してきたら、次の課題は「専門分化」です。起業初期は少数精鋭で意思決定を集中させることが効率的ですが、成長フェーズに入ると各分野の専門性を伸ばすことが必要になります。
優秀な人材が増えるほど組織は強くなりますが、その力を発揮させるためには、誰がどの分野を担当するのかを明確にしなければなりません。営業は営業、技術は技術と役割を分け、専門家が判断と工夫を発揮できる環境を整えるべきです。
この段階では、新たに仲間を募ることも重要になります。創業時には存在しなかった業務や、新たに必要となった分野を補うために、追加で人材を採用したり外部の専門家を招いたりすることが求められます。組織に新しい血を入れることで、停滞を防ぎ、常に進化を続けられるようになるのです。
また、専門性の高さは企業の競争力そのものです。顧客から見れば「その分野のプロがいる会社」という評価は信頼につながります。さらに、社員自身も専門家としての誇りを持てるため、士気の向上に直結します。研修や学習機会を提供し、各人がスキルを磨ける環境を用意することは、単なる福利厚生ではなく競争戦略そのものだと言えます。
組織が「仲間意識の強い集団」から「専門性を持つプロフェッショナル集団」へ進化することが、成長企業への転換点になります。

重複せずにシームレスに

専門分化を進めると同時に注意すべきは「機能の重複」と「機能の欠落」です。複数の人が同じ業務を担当すれば、命令系統が混乱し、責任の所在が不明確になります。逆に、必要な機能が欠けていると、そこが企業の弱点となり競合に差をつけられてしまいます。
したがって、職務分掌を整理し、重複なく、かつ抜けもない体制を整えることが欠かせません。例えば営業部門とマーケティング部門が曖昧に重なると、顧客対応に抜けが生じたり、施策が二重に走ったりします。一方で、顧客サポート部門が存在しないと、クレーム対応に追われて営業や開発の時間が奪われる事態にもなりかねません。
このバランスを取る上で役立つのが、起業前から築いてきた人脈です。不足する分野が明らかになったとき、信頼できる人脈を通じて適任者を探すことで、迅速に補強できます。外部から迎え入れる際にも、人脈経由であれば文化的な相性が合いやすく、組織にスムーズに溶け込んでくれます。
やがて、すべての主要機能が重複なく、シームレスにつながる体制が完成したとき、組織は真の成長段階に入ります。この状態になって初めて、新規事業を生み出す余力も生まれます。人材集めは単なる「人を増やす作業」ではなく、組織の穴を埋め、連携を滑らかにするための戦略的行動になります。ここまで組織が発達すると、次は新規事業の創出など幅広い選択肢の中で多様に組織を育てていくことが可能になります。

まとめ

起業はアイデアや資金だけでなく、何よりも人をどう集め、どう活かすかで成否が決まります。経営者一人の力では事業は成立せず、共感や成長意欲を持った仲間を集めることが不可欠です。そのためには起業前から計画的に人脈を広げ、信頼を築く努力を惜しんではなりません。
ただし、人を集める際には統率を優先し、意思決定権を明確にする必要があります。やがて組織が成長すれば、専門分化を進めて競争力を高め、さらに職務を重複なく整理してシームレスに連携する体制を整えることが重要です。
起業とは、人を集め、組織を築き、磨き上げていく過程そのものです。適切な人材を適切なタイミングで迎え入れることができれば、事業は確かな成長軌道に乗り、未来を切り拓いていけるでしょう。
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