京都で老舗ホテルが外資に売却するメリットと悪手性【公認会計士×MBAが解説】

事業再生

京都で老舗ホテルが次々と外資系ホテルに

京都では、長年にわたって営業を続けてきた日本の老舗ホテルが、その土地や建物を外資系ホテル企業などに売却し、新たなブランドや運営形態のホテルへと生まれ変わる動きが目立っています。京都は世界的な観光都市であり、宿泊施設そのものの価値も高まっています。

長年営業してきたホテルほど建物の老朽化や設備更新の問題を抱えやすく、現代の旅行者が求めるサービスに対応するためには多額の投資が必要です。さらに、人件費や光熱費などの運営コストも上昇しています。売上を伸ばすために追加投資を行っても、それに見合う利益を確実に確保できるとは限りません。

そこで、企業としては「これ以上ホテル事業を続けるより、価値が上昇した不動産を売却して利益を確定させた方がよい」と判断することになります。株主や経営者から見ても、長期間にわたって不確実な収益を追い続けるより、一度に大きな資金を得られる売却は合理的な選択になり得ます。

一方で、こうした動きには、日本企業にありがちな経営上の弱点も垣間見えます。目の前の資産価値を確定させることには成功しても、その資産が将来生み出す収益を自ら取りに行くことを諦めることになるからです。とりわけ、世界的な観光需要を取り込める京都の宿泊施設には、単なる不動産以上の事業価値があります。その価値を十分に伸ばす前に売却してしまえば、経営としては「安全な利益を確保した」という評価と同時に、「成長機会を手放した」という評価も成立します。そこで本稿では、京都でなぜ老舗ホテルが外資に不動産を売却するのかを解説します。

観光公害レベルのインバウンド

京都の観光需要は非常に大きく、インバウンドの増加によって宿泊施設に対する需要も強くなっています。観光客が集中することで交通や混雑などの問題が生じ、いわゆる観光公害と呼ばれる状況にまで発展するほど、京都には国内外から多くの旅行者が集まります。これは観光都市としては大きな課題である一方、宿泊事業者から見れば極めて大きな商機でもあります。

特に重要なのは、京都を訪れる外国人旅行者の中には、宿泊施設に対して単に「寝る場所」以上の価値を求める層が存在することです。サービスの品質、ブランドに対する信頼、予約のしやすさ、外国語対応、スタッフの接客水準などを総合的に評価して宿泊先を選ぶ旅行者は少なくありません。世界各地でホテルを展開してきた外資系企業は、こうした顧客から一定の信頼を獲得する基盤を持っています。

そのため、外資系ホテルは京都という立地に進出することで、世界規模で形成してきたブランド力を活用し、インバウンドの中でも特に高い宿泊単価を期待できる富裕層を取り込むことが可能になります。京都の不動産を取得することは、単に建物を所有することではありません。世界中から旅行者が集まる観光都市において、宿泊需要を収益化する権利を手に入れることにもつながります。

一方、既存の老舗ホテル側からすると、そこまでの収益性を実現するためには相応の経営努力が必要です。サービスの刷新、施設の改修、外国語対応、人材確保などに継続的な費用を投じなければなりません。それらを実施しても、投資した資金をいつ回収できるかは明確ではありません。

さらに、不動産価格そのものが上昇している局面では、収益性の低いホテル事業を継続するより、保有不動産を売却して大きな利益を確定させる方が、短期的には合理的な場合があります。老舗ホテルにとっては、事業を続けて毎年利益を得るよりも、資産価値が高まったタイミングで売却する方が経営上の成果を出しやすいです。その結果、京都という極めて魅力的な市場において、日本企業が宿泊事業を続けるのではなく、不動産を外資へ売却する流れが生まれています。

コロナで大幅なシフトチェンジが必要となった

宿泊業にとって、新型コロナウイルス感染症の拡大は極めて大きな打撃でした。人の移動そのものが制限され、旅行や出張が大幅に減少したことで、宿泊施設は従来の営業方法では十分な収益を確保できない状況に置かれました。ホテルは客室を提供するだけで成立する事業ではありません。宿泊需要の変化に応じて、価格設定、販売方法、接客、人員配置、施設の使い方などを柔軟に変えていく必要があります。

ところが、顧客が減少して収益が落ち込んでいる時期に、新しいサービスへ移行するための投資を行うことは容易ではありません。売上が減っている中で設備を改修し、新たなシステムを導入し、人材を採用・教育するには資金が必要です。しかも、新しい取り組みがすぐに成果を出す保証はありません。経営者から見れば、収益が落ち込む時期ほど投資判断が難しくなるという矛盾を抱えることになります。

京都の老舗ホテルには、長い歴史の中で積み重ねてきた営業方法やサービスへのこだわりがあります。それは大きな強みである一方、環境が大きく変化したときには弱点にもなります。過去に成功した方法ほど、「これまでこれでやってきた」という意識を生みやすく、新しい仕組みへ移行する際の心理的な抵抗になり得ます。

また、長年にわたってホテルを運営している企業ほど、組織や取引関係、業務手順などが固定化している場合があります。新しい顧客層に対応するには、こうした仕組みそのものを変えなければなりません。しかし、変化には社内調整が伴い、現場の負担も増えます。コロナ禍によって経営体力を失っている時期に、さらに大規模な改革を進めることは相当な負担です。

その結果、コロナ後の新しいサービス業のあり方へ積極的にシフトするより、既存事業を縮小したり、不動産を売却したりする方が現実的だと判断する企業が出てきます。これは経営者にとって必ずしも怠慢な選択ではなく、資金繰りや事業継続を考えれば理解できる判断です。ただし、変化のために苦労することを避ける選択である以上、長期的な成長機会まで失う可能性があります。

インバウンド増加への対応

コロナ禍によって観光需要が一時的に大きく落ち込んだとしても、京都が世界的な観光都市であるという事実そのものが失われたわけではありません。感染症による移動制限が緩和されれば、外国人旅行者が再び京都を訪れることは十分に想定できました。したがって、宿泊業者にとって重要だったのは、需要が戻ってから対応することではなく、需要が戻ったときに受け入れられる体制をあらかじめ整えておくことでした。

しかし、インバウンドを本格的に取り込むためには、従来のホテル運営をそのまま続けるだけでは不十分です。外国人旅行者が利用しやすい予約環境を整え、外国語による案内や接客を充実させ、文化や習慣の違いにも配慮する必要があります。館内表示やウェブサイト、予約手続など、顧客との接点を幅広く見直すことも求められます。

さらに、外国人対応のできるスタッフを確保することも大きな課題です。単に外国語を話せる人を採用すれば終わる問題ではありません。ホテルのサービス品質を維持しながら、多様な国籍の顧客に対応できる人材を育成する必要があります。そのためには採用費だけでなく、研修費や教育時間も必要になります。人手不足が深刻な宿泊業において、必要な人材を確保すること自体が容易ではありません。

施設面でも負担があります。外国人旅行者のニーズに合わせて設備を更新し、予約管理や顧客対応のデジタル化を進めるには、まとまった投資が必要です。既存施設を少しずつ改善するだけで済む場合もありますが、老舗ホテルの場合、建物そのものが古く、大規模な改修が必要になることもあります。

こうした対応には、当然ながら手間とコストがかかります。しかも、改革を進めるためには社内の意思統一も必要です。長年続けてきたホテルの運営方法を大きく変えることに抵抗があれば、意思決定はさらに遅れます。そこで、インバウンド増加を商機として積極的に取り込むのではなく、その対応に必要となる負担を避けるため、保有不動産を売却するという判断に傾くことがあります。売却によって確実な利益を得ることはできても、将来の観光需要を自社の収益に変える機会は失われます。

コロナは変わるチャンスだった

宿泊業はコロナ禍によって、極めて大きな被害を受けた業種の一つです。旅行需要が急減したことで、従来の営業方法がそのままでは通用しないことが明らかになりました。しかし、危機が大きかったからこそ、それまで変えにくかった仕組みを一気に見直す機会でもありました。平時には既存顧客や従業員、取引先との関係があるため、大幅な改革には慎重になりがちです。ところが、事業環境そのものが崩れたコロナ禍では、従来の方法を維持する理由も弱くなりました。

この意味で、コロナは宿泊業にとって単なる災害ではなく、サービスのあり方を前向きに変える契機でもありました。顧客が変わり、旅行目的が変わり、予約方法が変わり、求められる接客も変化しました。こうした環境変化に合わせてサービスを作り直せば、従来とは異なる顧客を取り込み、新たな収益源を育てることができます。

大企業や外資系企業は、こうした変化を事業機会として捉えやすい面があります。市場環境が大きく変わったときには、過去の成功モデルに固執するのではなく、新しい需要に合わせて資金、人材、ブランド、システムなどを組み替えることができます。変化のための投資を負担として見るのではなく、将来の収益を得るための投資として考える姿勢が重要です。

これに対して中小企業では、改革に必要な資金や人材を確保することが難しく、経営者自身も大きな変化に踏み切ることを躊躇しやすくなります。その結果、危機を乗り越えるために事業を変えるのではなく、価値の高まった不動産を売却して利益を確定させる方向へ進むことがあります。

もちろん、売却によって経営基盤を安定させること自体は悪いことではありません。問題は、そこに至るまでに「変われば大きく成長できる」という選択肢を十分に検討したかです。コロナという未曽有の危機は、過去の慣行から離れ、新しい宿泊サービスを構築する絶好の機会でもありました。その機会を活かして大きく伸びる道を選ぶのではなく、不動産を売り抜いて確実な利益を得ることだけにとどまれば、経営としては安全でも、成長戦略としては物足りない結果になり得ます。

まとめ

京都の老舗ホテルが外資系企業などに不動産を売却することには、経営上の合理性があります。不動産価格が上昇している局面では、事業を継続して得られる利益よりも、資産を売却して得られる利益の方が大きくなることもあります。経営体力や投資余力に乏しい企業にとって、売却は事業を整理し、確実に利益を確保する手段となります。

ただし、京都のように世界中から旅行者が集まる都市では、不動産そのものだけでなく、その上で展開できる宿泊事業にも大きな価値があります。外資系ホテルが取得した施設を活用して高付加価値のサービスを展開できるのであれば、売却した側はその将来収益を手放したことになります。

したがって、問題は「外資に売ることが悪い」のではありません。本当に問われるべきなのは、日本企業が自ら変化して成長する可能性を十分に検討したうえで売却を選択したのかという点です。変化に必要な投資や人材育成を避けるために資産を売るのであれば、短期的には利益が出ても、長期的な事業機会を失う可能性があります。

コロナ禍による需要減少は、多くの宿泊事業者にとって厳しい試練でした。しかし同時に、従来のサービスや組織を根本から見直すことが許される特殊なタイミングでもありました。そこで大胆に変化できる企業と、変化を負担と捉えて撤退する企業との間には、その後の成長力に大きな差が生まれます。

京都の老舗ホテルの売却は、単なる不動産取引として見るだけでは本質を捉えきれません。そこには、資産価値を確定させる経営と、将来の事業価値を育てる経営の違いがあります。売却によって得られる利益が悪いわけではありませんが、目先の確実な利益を得るために、世界的な観光都市で事業を成長させる機会まで手放してしまうのであれば、それは「悪手」と評価される余地があります。

当研究所では京都大学で経営学を学んだ代表が、京都ならではの経営の在り方を指南いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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