中小企業の事業規模の維持が困難
近年、日本の中小企業はかつてのような成長を前提とした経営モデルの維持が難しくなってきています。少子高齢化や人口減少といった社会構造の変化により、国内市場そのものが縮小し、需要の拡大が見込みにくくなっています。こうした状況下では、企業規模を現状のまま保ち続けること自体が過度な負担となり、かえって経営を圧迫する原因となることもあります。
また、グローバル化が進み、大手企業や海外企業との競争が激しくなるなかで、規模を維持しようとするあまり無理な投資や拡大戦略に走る中小企業も少なくありません。しかしその結果、負債が膨らみ経営が不安定になるケースが増えており、むしろ事業の適正な規模に見直し、持続可能な範囲での経営を志向することが求められています。
そこで本稿では、こうした市場の変化を冷静に受け止め、自社の体力と照らし合わせた戦略の転換の必要性について説明します。
人手不足による採用の難しさ
中小企業が規模の維持に苦しむ理由の一つに、深刻な人手不足があります。特に若年層の人口が減少するなかで、優秀な人材の確保は年々難しくなっています。都市部では大企業や公務員といった安定した職種に人気が集中し、地方の中小企業では求人を出しても応募がまったくないという事態も珍しくありません。
さらに、働き方改革の影響により、労働時間の適正化や職場環境の整備といった対応も求められるようになっていますが、中小企業ではリソースやノウハウが不足しており、対応が後手に回ってしまうことも多いのが現状です。そのため、無理に従業員数を維持しようとすると、既存の従業員に過度な負担がかかり、離職率が上がるという悪循環にもつながります。
このような状況を踏まえれば、従業員数に見合った業務量へと調整する、すなわち事業規模を縮小し、少数精鋭で回せる体制に転換することが現実的な選択肢となります。採用が難しいならば、むしろ「採用しなくても回る会社」を目指すべきです。
競争激化による売上の減少
インターネットの普及と技術革新によって、業種を問わず競争は一段と激しさを増しています。今や地方の小規模な商店であっても、ネット通販という形で全国の競合と戦わなければなりません。価格競争に巻き込まれることも多く、利益率は年々低下しています。
また、消費者の嗜好が多様化しているため、かつては安定していたニッチな市場も一定の需要を保ちにくくなっています。これまでの売上を前提とした固定費の水準では、採算が合わなくなるケースが増えているのです。
こうした状況のなかでは、売上の減少に合わせてコスト構造を見直し、固定費を圧縮する必要があります。事業所の統廃合や商品ラインの整理、外注の活用などを通じて、より軽量な経営体制に移行することが、経営の安定につながります。無理に売上を回復させようとするよりも、売上に応じた規模に落とし込み、利益を確保する方向に舵を切ることが重要なのです。
経営者の高齢化と後継者不在
中小企業の経営者の高齢化も深刻な問題です。中小企業庁によれば、現在、経営者の平均年齢はおおよそ60代半ばに達しており、今後10年以内に事業承継が必要となる企業は数十万社にのぼるとされています。しかし、後継者が見つからず、廃業を余儀なくされる企業も少なくありません。
後継者がいない場合、今の体制をそのまま維持することは困難です。仮に親族や従業員から後継者を見つけたとしても、経験やノウハウの不足から、いきなり現行規模の事業を担うのは負担が大きすぎます。こうした背景からも、事業を段階的に縮小し、管理しやすい規模に調整することが重要になります。
事業規模の縮小は、後継者の育成期間を確保しやすくするだけでなく、引き継ぎ時のリスクを軽減する効果もあります。引き継ぐ側にとっても、無理のない範囲で経営を始められる点で大きなメリットがあります。
設備の老朽化・組織のマンネリ化
長年事業を続けてきた中小企業では、設備の老朽化が大きな課題となっています。古い機械やITシステムは故障のリスクが高く、メンテナンス費用もかさみます。にもかかわらず、更新投資を行う余力がない企業が多く、そのまま使い続けてしまうケースも目立ちます。
また、組織全体の活力が低下している例もあります。従業員の顔ぶれが長年変わらず、新たなアイデアやイノベーションが生まれにくい状態に陥っているのです。こうした組織のマンネリ化は、外部環境の変化への対応力を著しく損ないます。
このような場合にも、規模の縮小は有効な手段となります。老朽化した設備を思い切って廃棄し、必要最小限の設備で事業を再構築することで、維持コストを大幅に削減できます。また、事業を絞り込むことで業務フローが単純化され、新しい人材の採用や育成が行いやすくなります。変化に強い組織をつくるためにも、最適規模の追求は重要な戦略なのです。
まとめ
中小企業を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、現状の事業規模を維持し続けることが経営の足かせになる時代に突入しています。人手不足や競争激化、後継者難、設備の老朽化といった複数の課題が重なっている今こそ、規模を「守る」のではなく「見直す」発想が必要です。少しずつでも縮小し、経営資源を集中することで、持続可能な体制を築くことができます。規模の最適化は、企業の未来を守るための積極的な選択肢なのです。
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