多くの業種で倒産案件が増加いい傾向
近年、「〇〇業界で倒産件数が増加」といったネットニュースを目にする機会が増えています。製造業、小売業、飲食業、建設業など、業種を問わず倒産が相次いでいることが報じられ、経済の先行きに不安を感じる経営者の方も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスの影響や、物価上昇、慢性的な人手不足、さらには円安による輸入コストの増加など、外的な要因も複雑に絡み合っており、中小企業の経営環境は決して楽観できるものではありません。
たとえば、2024年には飲食業の倒産件数が前年比20%増加したとの統計も発表されています。これはテイクアウトや宅配といった新たなビジネスモデルに適応できなかった中小店舗が閉店を余儀なくされたことも影響しています。同様に、建設業では資材価格の高騰と人件費の上昇により、赤字工事を抱えて倒産に至る事例が後を絶ちません。
もっとも、倒産には一つの明確な原因があるわけではなく、いくつかの課題が複雑に絡み合って発生することがほとんどです。本稿では、最近の倒産事例に多く共通して見られる「4つの主要な要因」に着目し、それぞれについて詳しく解説していきます。これらの要因を理解し、自社の経営にどう活かすかを考えることが、倒産を未然に防ぐ第一歩となるでしょう。
売上の逓減に対する方策がない
どんなに優れた商品やサービスでも、時が経てば売上が徐々に減少していく傾向は避けられません。流行やニーズの変化、競合他社の登場、技術の進化など、様々な要因によって売上は逓減していくのが一般的です。これは市場の自然な動きであり、どの業種でも避けられない現象です。
しかし、中小企業の中には、売上が下がり始めても特段の手を打たずに現状維持を続けてしまうケースが多く見られます。広告宣伝を強化する、新商品や新サービスを開発する、新しい販売チャネルを開拓するなどの具体的な対応が求められるにもかかわらず、変化を避け、売上減少を放置してしまうのです。
特に、創業当初に一定の成功を収めた企業ほど、その成功体験に固執してしまい、新しい試みに消極的になる傾向があります。ですが、顧客の嗜好や時代の潮流は常に変化しているため、過去のやり方を続けるだけでは通用しなくなります。中には、社内にマーケティング担当が不在で、広告に関するノウハウも蓄積されておらず、何をどう改善すべきかが分からないという声もあります。
例えば、長年地域密着型で営業していた小売店が、近隣に大型チェーン店が開店した途端に売上が激減したというケースでは、オンライン販売やSNSによる集客の導入といった対応を取れずに、そのまま廃業に追い込まれた例もあります。売上の逓減に対して何の手も打たなければ、いずれ経営が立ち行かなくなるのは当然の流れです。
物価上昇に応じた価格転嫁ができない、あるいは下手
近年は物価の上昇が続いており、企業が商品やサービスを提供するために必要な仕入れコストも右肩上がりで増加しています。エネルギー価格や人件費の高騰、物流コストの増加などにより、原価そのものが上がっている中で、販売価格を据え置いたままでは利益が圧迫されてしまいます。
そのため、価格転嫁は経営の健全性を維持するためには不可欠な施策です。ところが、価格を上げることに消極的な経営者も少なくありません。「値上げをすると顧客が離れるのではないか」「競合他社に負けるのでは」といった不安から、価格転嫁を躊躇してしまうのです。
また、値上げをする場合でも、そのタイミングや方法を誤ると顧客の反発を招き、結果として売上が減少することもあります。価格改定にあたっては、丁寧な顧客説明や付加価値の明示、段階的な導入などの工夫が求められます。
たとえば、パン屋で小麦粉価格の高騰を受けて価格を一律50円引き上げたところ、客足が半分に落ちたという事例もあります。一方で、同業他社では価格改定に際して「国産小麦への切り替え」や「ボリュームアップ」などの付加価値を併せて説明し、顧客満足度を下げることなく値上げを成功させた例もあります。物価上昇の環境下では、適切な価格転嫁戦略を持たない企業は、収益悪化に直面しやすくなります。
無駄な費用の削減ができていない
経営が順調な時期には、役員報酬の増額や多額の交際費、贅沢な福利厚生など、支出が緩んでしまうことがあります。特に中小企業では、経営者と会社の財布の紐が近く、私的な出費が経費として処理されるようなケースも見受けられます。こうした体質が根付いてしまうと、いざ売上が減少したときに支出を抑える意識が働きにくくなります。
コロナ禍を契機にリモートワークが普及したにもかかわらず、未だに高額な賃貸オフィスにこだわっていたり、必要以上の社用車を維持していたりする例もあります。また、成果に直結しない営業接待や無駄なイベントへの出費が、気付けば毎月数十万円単位で会社の財務を圧迫していることもあります。
一方、優れた経営者は景気の良いときでも支出を見直し、将来のための内部留保を確保しています。経費削減は一時的な対応ではなく、常に必要性を検討し、収支のバランスを取るための重要な経営判断の一つです。赤字を回避するためには、利益の最大化だけでなく、無駄を省いた効率的な経営が欠かせません。
資金繰り管理ができていない
倒産の中には、帳簿上では黒字であっても、実際には資金が不足して倒れる「黒字倒産」と呼ばれるケースがあります。これは、売上が立っていても現金が手元にない、つまりキャッシュフローが回っていない状態です。中小企業においては、月末や四半期末の資金繰りに苦しむ例が非常に多く見受けられます。
このような事態が起こる背景には、売上至上主義に陥り、資金回収のタイミングや条件を軽視してしまう傾向があります。たとえば、売上を確保するために取引先に対して長期の支払い猶予を与えたり、リスクの高い顧客に掛け取引を許したりすると、売掛金の回収が遅れたり、最悪の場合焦げ付いてしまうことがあります。
また、税金や社会保険料などの支払いスケジュールを見誤った結果、支払期日に資金が用意できず、資金ショートに陥るケースもあります。こうした資金繰りのミスは、経営の根幹を揺るがす重大なリスクです。売上をいくら伸ばしても、資金が足りなければ会社は存続できません。
資金繰りの管理は、売上や利益以上に重要な経営活動といえます。日次や週次での資金繰り予測、月次でのキャッシュフロー計画、金融機関との良好な関係づくり、売掛金の管理徹底など、日常的な努力が企業の持続性を高めます。とりわけ、資金繰りを“見える化”して社員全体で共有することで、無駄な支出への意識が高まり、組織全体の財務意識の向上にもつながります。
まとめ
中小企業の倒産にはさまざまな要因が絡んでいますが、本稿で紹介した4つの主要な要因——売上の逓減に対する無策、価格転嫁の失敗、無駄な支出の継続、資金繰りの不備——はいずれも多くの企業に共通する課題です。
これらの問題は、一つひとつは小さなほころびであっても、複合的に発生することで経営を破綻に導く引き金となります。逆にいえば、これらのリスクに対して事前に備え、適切な対応を取ることができれば、倒産という最悪の事態を回避する可能性も高まります。
時代の変化は避けられませんが、変化を受け入れ、柔軟に対応する企業だけが生き残ることができるのです。経営者は日々の意思決定の積み重ねが企業の未来を形作っていることを自覚し、常に経営の健全性を見直していく必要があります。中小企業であっても、財務体質の強化や戦略的な経営判断を怠らないことが、持続可能な経営への第一歩となるでしょう。
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