不正の芽は早期に摘み取れ
不正行為への対応で最も重要なのは、問題が大きくなってから対処するのではなく、できるだけ早い段階で不正の芽を摘み取ることです。不正は、発生した瞬間に完結するとは限りません。一度行われた不正がそのまま放置されると、その後も同様の行為が繰り返される可能性が高まります。一度成功してしまえば、不正によって得られる利益や、発覚しなかったという経験が次の行為を誘発することがあります。
また、不正行為は、それ自体が問題となるだけではありません。一度不正を行った者は、その事実が発覚することを避けようとする心理から、さらに別の不正を重ねることがあります。こうなると、当初の不正そのものよりも、後から積み重なった行為の方が深刻な問題になることさえあります。
不正の発生後に必要となる負担は、単なる金銭的損失に限りません。社内の業務を止めて調査を行う必要が生じたり、取引先との関係に影響が出たり、経営者や管理職が本来の業務に集中できなくなったりすることもあります。不正が早期に発見されれば、影響範囲が限定され、対応すべき事項も比較的明確になります。反対に、発見が遅れれば遅れるほど、会社が負担すべき回復コストは膨らみます。
したがって、不正については「大したことではない」と考えて放置することが危険です。小さな兆候の段階で事実関係を確認し、必要な対応を取ることが、会社にとって最も負担の少ない問題解決につながります。不正は時間の経過によって自然に消えるものではなく、放置によって拡大する可能性がある問題です。そこで本稿では、不正の芽は早期に摘み取るべき具体的な理由を解説します。
不正を誤魔化すために書類やデータの偽装が行われる
不正行為が発生した場合、問題がその行為だけにとどまらないことがあります。特に注意しなければならないのが、不正を発覚させないために書類やデータが改変されることです。会計や業務上の不正では、実際の状況と記録上の状況との間に差が生じることがあります。そして、その差を隠すために、帳簿、報告書、管理資料、電子データなどに手が加えられる場合があります。
こうした行為が行われると、会社は自ら保有する情報を正しく利用できなくなります。本来、社内のデータは経営判断や業務上の意思決定を支える重要な基礎資料です。売上、費用、在庫、契約、顧客情報など、さまざまな情報が正確であることを前提として、会社は日々の判断を行っています。その前提が崩れると、経営者や管理者が正しい状況を把握できなくなります。
書類についても同様です。会社の業務において作成される文書は、単なる事務処理のための資料ではなく、取引や意思決定の経緯を示す重要な証拠となることがあります。それを不正に改変した場合、社内規則や契約上の問題にとどまらず、内容や方法によっては文書偽造などの刑事事件に発展するおそれがあります。
つまり、不正を隠すための行為は、元となった不正とは別の問題を会社に発生させる可能性があります。さらに、正確なデータが失われることで、会社自身が自社の状況を把握できなくなるという深刻な二次的損害も生じます。不正が疑われる段階で事実確認を進めることは、こうした記録の改変が広がることを防ぎ、会社の情報基盤を守るうえでも重要です。
虚偽の説明が行われる
不正行為が発生したときに問題となるのは、社内の記録だけではありません。不正を行った者が、その事実を発覚させないために周囲へ虚偽の説明をすることもあります。虚偽の説明が社内だけで完結している場合でも、会社の調査や意思決定を誤らせる可能性があります。事実とは異なる情報を前提として判断すれば、本来必要な対応が遅れたり、誤った対応を取ったりすることになります。
さらに問題となるのは、その説明が会社の外部に向けられた場合です。会社と顧客、取引先などとの関係は、基本的に相互の信頼によって成り立っています。取引相手は、会社から提供される情報が正確であることを前提として、契約を締結したり、商品やサービスを購入したり、その他の判断を行ったりします。そのため、外部顧客に対する虚偽説明が判明すれば、会社そのものに対する信用が失われる可能性があります。その結果、担当者個人の問題が会社全体の信用問題へと発展することがあります。
さらに、虚偽の説明を信じた外部顧客が、その説明を前提として何らかの処分行為を行った場合には、民事上の責任だけでなく、内容によっては詐欺罪などの刑事事件に発展するおそれもあります。もちろん、単なる誤解や説明ミスが直ちに犯罪となるわけではありません。しかし、相手方を欺く意図を伴う虚偽説明が行われ、それによって財産上の処分などがなされれば、重大な法的問題となる可能性があります。
このように考えると、最初は小さな嘘に見える説明であっても、対外的には決して小さな問題ではありません。会社の信用は積み上げるまでに長い時間を要する一方、虚偽説明によって失われるのは一瞬です。不正そのものだけでなく、それに伴う虚偽説明が外部へ広がる前に、適切に事実関係を把握しておくことが重要です。
繰り返される
不正行為を早期に発見し、適切に対応する必要がある大きな理由の一つが、不正は繰り返されやすいという性質を持っていることです。一度行った不正によって本人が何らかの利益を得たり、問題が発覚しなかったりすると、その経験が次の不正への心理的な抵抗を低下させることがあります。「前回も問題にならなかった」という認識が生まれると、同じ行為を再び行うことへの警戒心が薄れてしまいます。
不正の危険性は、単発の行為として評価すると見誤ることがあります。一度の不正による損害が小さかったとしても、それが複数回繰り返されれば、損害は累積します。さらに、繰り返される過程で不正の規模が大きくなれば、最初の段階では容易に是正できた問題が、会社全体の経営を揺るがす問題に変化する可能性があります。
そして、繰り返された不正は、いつまでも発覚しないとは限りません。内部監査、担当者の交代、業務手続の変更、取引先からの指摘など、さまざまな契機によって過去の問題が明らかになる可能性があります。発覚した時点で不正が長期間継続していれば、その影響も当然大きくなります。
会社にとって最も避けなければならないのは、「今は問題が起きていないから大丈夫」という判断です。発覚していないことと、不正が存在しないことは同じではありません。不正が続いているにもかかわらず表面化していないだけであれば、時間の経過によって問題が蓄積している可能性があります。
その意味で、最初の不正行為を見逃さないことには非常に大きな意味があります。最初の段階で止めることができれば、その後の反復を防ぐことができます。反対に、一度の不正を軽視すれば、それが常態化する危険があります。不正を発見した際に厳格に事実を確認し、必要な是正を行うことは、単に目の前の問題を解決するだけでなく、将来的な会社の損害を抑えるためにも重要なのです。
組織風土、内部統制
不正行為を防止するためには、個々の従業員に注意を求めるだけでは十分ではありません。会社全体として、不正を行わないことを当然とする組織風土を形成する必要があります。どれだけ規則を整備しても、実際の職場で規則を軽視する雰囲気があれば、不正を十分に防ぐことはできません。反対に、適正な手続を守ることが評価され、不正を見過ごさない環境が整っていれば、不正の発生を抑制しやすくなります。
組織風土を形成するうえでは、経営者や管理職の姿勢が重要です。会社が何を重視しているのかは、社内の従業員に大きな影響を与えます。適正な業務遂行そのものを重要な価値として位置付ければ、従業員が不正を容認しにくい環境を作ることができます。
そのうえで有効なのが内部統制です。内部統制とは、単に不正を監視する仕組みではありません。業務の権限を適切に分け、複数の人が確認できる状態を作り、記録を残し、異常があれば把握できるようにするなど、会社の業務そのものに適正性を確保する仕組みです。従業員同士が相互に確認できる体制を構築すれば、一人の判断だけで不正を継続することが難しくなります。
不正が生じる背景には、一般に動機、機会、正当化事由という要素があると考えられます。経済的な事情などの動機が存在し、監視が弱いなど不正を行う機会があり、さらに「これくらいなら問題ない」と自分の行為を正当化できる状況が重なると、不正が発生しやすくなります。
そのため、会社としては、これらの要素を可能な限り減らしていく必要があります。過度な負担を放置せず、権限を集中させず、相互チェックを機能させ、ルールを明確にすることが重要です。また、ルール違反を見つけた際には、問題を曖昧に処理せず、適切に是正することも欠かせません。組織風土と内部統制は別々のものではなく、相互に作用するものです。日常的な業務の中に不正を防ぐ仕組みを組み込み、それを継続的に機能させることが、不正の発生を抑えるための基本となります。
まとめ
不正は、発生した瞬間の行為だけを見て判断してはいけません。一度発生した不正が繰り返されれば、損害は拡大します。また、不正を隠すために書類やデータが偽装されれば、会社が保有する情報そのものの信頼性が失われます。さらに、発覚を免れるための虚偽説明が行われれば、社内の意思決定を誤らせるだけでなく、外部顧客との信頼関係を損なう可能性があります。
このように、不正は一つの行為から別の問題を生み出しながら、徐々に会社への影響を広げていく性質があります。だからこそ、不正への対応では「大きな問題になってから対応する」という考え方ではなく、初期段階で異常を把握し、適切に対処する姿勢が重要です。
もっとも、不正を防ぐために必要なのは、従業員を常に疑うことではありません。重要なのは、誰か一人の倫理観や注意力だけに依存しなくても、適正な業務が行われる仕組みを作ることです。不正を許容しない組織風土を形成し、権限や業務を適切に分担し、相互に確認できる内部統制を整えることが求められます。
また、不正が疑われる兆候を把握した場合には、問題を小さく見せようとせず、事実関係を正確に確認することが大切です。初期対応を誤ると、後になって確認すべき事項が増え、会社が負担する時間や費用も大きくなります。早期対応は、厳しく処分することだけを意味するのではなく、問題を限定された範囲で把握し、適切な是正につなげるための対応でもあります。
会社にとって不正は、発生してから対処するより、発生させない方がはるかに負担が小さい問題です。そのため、日常業務の中で不正の兆候を見逃さず、組織と仕組みの両面から発生を抑えることが重要です。不正の芽が小さいうちに摘み取ることこそが、会社の信用、業務の継続性、そして健全な経営を守るための基本的な姿勢です。
当研究所では、法律・会計・ITのあらゆる側面から、御社の不正防止体制の構築に貢献いたします。下記よりお気軽にご相談ください。


コメント