不動産の相続処理に困るケースが増加
近年、相続にまつわる相談の中でも、「不動産を相続したが、どうすればよいか分からない」「売れないし、維持費ばかりかかる」といった声が多く聞かれます。特に地方に所在する空き家や、築年数が古く資産価値の乏しい不動産は、相続人にとって「負動産(ふどうさん)」とも呼ばれるお荷物となりがちです。
少子高齢化が進む現在、都心部から離れた地域では人口減少が続き、不動産市場も冷え込んでいます。そのため、相続した不動産を売却しようとしても買い手がつかず、長年にわたって維持管理を強いられるという状況が起こっています。
日本全国で空き家問題が深刻化している中、不動産の相続にまつわるトラブルも増加の一途をたどっています。親族の不動産を相続したはいいものの、処分に困ってしまい、結果として固定資産税だけが重くのしかかるという事例は決して少なくありません。そこで本稿では、増え続ける相続不動産の問題を背景に、計画的な「相続放棄」という選択肢を提案し、その有効性について詳しく解説します。
一般的な相続処理は手間も費用もかかる
不動産の相続における一般的な流れとしては、相続人全員で遺産分割協議を行い、その結果をもとに遺産分割協議書を作成します。その上で、法務局にて相続登記(所有権移転登記)を行う必要があります。
しかし、この一連の手続きには専門的な知識が必要となり、司法書士などの専門家の力を借りることが一般的です。報酬も当然発生し、書類作成や登記に関する費用がかさみます。そもそも、司法書士を探す手間も大変だと感じられる相続人の方も多いです。
さらに、他の相続人との連絡をとることが難しければ、遺産分割協議が長引き、精神的にも肉体的にも大きな負担となります。
古い不動産は売れない可能性が高い
不動産は資産であるという考え方は今も根強く残っていますが、すべての不動産が「資産」として価値を持っているわけではありません。特に、次のような不動産は売却が難しい傾向にあります。
- 築年数が30年以上経過している
- 人口減少地域にある
- 最寄り駅から遠く、交通の便が悪い
- 建物の状態が悪く、修繕費用がかかる
- 土地の形状や法的制限に問題がある
こうした不動産は、売却どころか、タダでも引き取ってもらえないというケースすら存在します。むしろ、固定資産税や草木の管理、倒壊リスクへの対応といった「維持費用」ばかりがかかり、相続人の負担が増していくケースも多いです。
相続放棄という選択肢
このように、相続することでむしろ損をする可能性が高い場合、「相続放棄」を選ぶことができます。相続放棄とは、相続人が相続の開始を知った日から原則3か月以内に、家庭裁判所に申述することで、相続人としての地位を放棄する制度です。
相続放棄をすれば、その不動産に対して一切の権利・義務を持たなくなり、以後の管理責任も原則として発生しません。つまり、固定資産税の支払いも不要となり、処分に困ることもなくなります。
また、相続放棄の手続きは比較的簡便で、司法書士や弁護士を介さずとも家庭裁判所で行うことが可能です。申述書と必要書類をそろえて提出することで手続きは完了し、費用も数千円程度と低額です。
放棄前にリバースモーゲージを活用する手も
相続放棄には多くのメリットがありますが、何もせずにすぐ放棄するのはもったいない場合もあります。特に、親が住んでいた家屋にまだ一定の価値がある場合、その不動産を担保として「リバースモーゲージ」を活用し、必要な資金を確保したうえで相続放棄するという方法もあります。
リバースモーゲージとは、高齢者が自宅を担保に金融機関から資金を借り入れ、生前は返済せず、死亡後に不動産を処分して返済に充てるという仕組みです。これにより、介護費用や生活資金、医療費などを確保することが可能となります。
相続放棄をする前にこの仕組みを活用することで、「不動産を活用しながら最終的には責任を手放す」という、一石二鳥の戦略が実現できます。ただし、リバースモーゲージには契約条件や地域制限、対象年齢などの要件がありますので、事前にしっかりと調査・相談することが重要です。
まとめ
不動産の相続は、一見「資産を受け継ぐ」行為のように思われがちですが、現代においてはむしろ「負債」を抱えるリスクも含まれています。特に市場価値の低い不動産や管理の難しい空き家については、安易に相続することがトラブルのもとになりかねません。
そのため、相続が発生した際には、速やかにその不動産の価値・状態を確認し、専門家のアドバイスを受けながら「本当に相続すべきかどうか」を慎重に判断する必要があります。そして、不要と判断した場合には、計画的に相続放棄を選ぶことで、無用な負担を回避することができます。
さらに、相続前の段階で家族としっかりと話し合い、不動産の今後について共通認識を持っておくことも大切です。放棄を前提とする場合でも、リバースモーゲージなどを活用することで資金面での工夫が可能です。
相続とは、人生の中でも数少ない重要な選択のひとつです。感情だけで決めるのではなく、冷静な判断と計画性をもって臨むことが、未来のトラブルを防ぐ最善の方法と言えるでしょう。
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