とある大学発ベンチャーの破産騒動
特許権は有象無象です。全く役に立たないものもあれば莫大な利益を生むものまであり、優れた特許権の目利きと適切な活用の重要性が増しています。もう10年以上も前に発刊された池井戸先生の「下町ロケット」でも、必要な特許権のライセンスを得られない大手企業が、その権利保有会社をまるごと買収しようと画策するシーンがありますが、本当に優れた知的財産権はそれ1つで会社1つ以上の価値を生じることは珍しくありません。そのため、特許権の価値把握に長けた弁理士が近くにいると非常に心強いでしょう。
本稿では、とある大学発のベンチャー企業が、収益性の高い特許権を出資者に奪われそうになったケースを参考に、特許権の適切な活用方法を紹介します。
ライセンス契約は普通だが、価格設定は難しい
企業名の公開は避けますが、ある大学発ベンチャー企業は商品化が可能な優れた特許権を有していましたが、自社で商品を生産するには資金が全然足りませんし、製造業のノウハウもないため自社で生産するのはリスクがありました。そこで、この特許権をライセンスして製造を外部に委託することを決定しました。これは至極当然な流れなのですが、ここでライセンスの対価を設定することは簡単ではありません。
特許権者側としては定額でもらいたいところですが、製造委託を受けた側もまだ事業が成功するか、成功したとしてもどの程度の収益になるのか不透明ですので、定額の出費は当然避けたいです。こうして、ライセンス契約を締結することと、その大枠の契約概要まではスムーズに決まるのですが、価格欄だけがなかなか埋まらないことはしばしばあります。
利益に対する割合とする場合の注意点
要は、商品生産から販売までうまくいけば高く払っても良いが、失敗した場合はゼロ、というのが双方納得のいく落としどころで、こうした契約では、受託企業の受託業務に関する収益の何%をライセンスの対価とするケースが多いです。
ここで契約上、十分に注意すべき点がいくつかあります。まずは、価格算定の根拠となる財務資料は適時に開示するよう契約書の中に確実に盛り込むことです。そして、その内容を毎期、慎重に精査することが不可欠です。
標記のケースでは、受託企業が、収支計算の中で、無関係の多額の費用を計上して意図的に収益がなかったと処理していたと言われています。こうした「ズル」がないかどうかを見極めなければ折角の特許権がただで利用されてしまいます。そのためには気軽に相談できる公認会計士がいれば便利です。
子会社化のリスク
このケースではライセンス先に買収され、完全子会社となりました。こうして支配権を譲ると、親会社から役員が派遣されて、子会社の役員はせいぜい1人残れるかどうか。当然、発言権は僅かで、親会社の意向で特許権を購入されてしまうおそれも発生します。
継続的安定的に契約を発展させていく場合、資金力のないベンチャー企業が大手資本の傘下に入ることも、その結果、親会社の役員に支配されることも決して珍しいことではありません。
ここで問題なのは、いかに親会社の横暴を察知した際に、特許権の安売りや移転を防止できるか、ここでは企業法務に詳しい弁護士が近くにいるとスピード感ある対応が可能となります。
経済支援を受ける場合のリスク
資本関係があるかはさておくとして、特許権のライセンス先から経済支援を受けることも慎重な判断が必要になります。ライセンスの対価を受託企業の収益の数%とすると、事業化に一定の時間を要することから、ライセンス収入が入るまで数年程度かかる可能性があります。そうすると、その間に、どうやって会社を維持するかという問題が生じます。
ここで、ライセンス契約を締結している受託企業から経済支援として、金銭「貸付け」の提案があることも一般的ですが、これを受けるかどうかは考え物です。「貸付け」とは借金であり、返済期限について多少、緩やかな条件で支援を受けられたとしてもどこかで返済が必要になります。
標記のケースでもこの経済支援を受けた上で、最後は当該債務を根拠に破産申請という最悪の方向に向かいました(裁判所が最終的に破産を認めず)。
債権を有していると、債権者は様々な手段をとることができます。そのため、特許権を狙う企業からは経済支援などは受けず、債務負わないことも自己防衛のために必要な観点です。
まとめ
以上のように、優れた特許権を有していてもその企業だけでこれを活用できなければ他企業との連携が必要になります。その際にその他企業に安く利用されてしまったり、特許権をだまし取られてしまうリスクがあるため、その対策としては、事業化に詳しい弁理士・公認会計士・弁護士と相談しながら慎重に話を進めていく必要があります。
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