リクルートがスキマバイトから撤退。そこで考慮されたと思われる事情

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リクルートがスキマバイト事業不参入を発表

リクルートが、2024年秋から開始予定であった「タウンワークスキマ(仮称)」について開発中止を発表しました。同社は2024年4月にスポットワーク市場への参入を発表し、短時間のアルバイトなどに仕事を依頼したい側とされたい側をマッチングするサイトの構築を準備していましたが、今年の春からも全社的な戦略の変更により、この部門を放棄することを決断しました。
就職に関するマッチングといえばリクルートは業界最大手であり、転職市場ではうまく成功しているように見えますが、今回リクルートがこの部門を諦めた背景にはどのような事情があるのか。公式に発表された情報ではなく、推測の域を出ないものですが、本稿ではその判断過程で考慮されたと思われる事情について、全社的な経営戦略や個々の領域の成長性の観点などから多面的に考察いたします

既存事業のノウハウ活用とデータ取得

リクルートがスキマバイト業界に参入を決めた背景には大きな理由が2つあると考えられます。

1つ目は、言わずと知れたリクルートの実績の活用であり、そのブランドへの信頼の高さや長年培ったノウハウをスポットワーク市場でも活用できると判断しての事です。新規事業構築は、自社の強みを活かしながら、スラックを活用して全社的なシナジーを起こすことが1つのセオリーで、この戦略自体に大きな問題は見当たりません。
もう1つは、雇用に関する幅広い情報の獲得ができる点です。スポットワークをマッチングしても1件あたりの売上は大した金額にはなりませんが、マッチングサイトを通じて得られる様々な求人情報や働き手の情報がリクルートの全社的な事業に活用できる貴重な無形資産となるため、これを獲得できるメリットが大きいことが魅力的でした。

競合他社の成長速度

ここで、スポットワークを巡る競合他社を見てみたいと思います。リクルートは就職活動や転職など、正社員採用のマッチングを行い、比較的高額の報酬を得るのが主力業務である企業ですが、スポットワーク市場での競合は比較的若いベンチャー企業が多いという現状があります。
こうしたテック型のベンチャーは資金調達の規模と速度が課題で、通常は大手企業と同じ事業を行っても勝ち目はないのですが、スポットワークに関しては、ベンチャーの方が意思決定の早さを活かして先行優位を築きました。こうしてベンチャー企業が資金面・ノウハウ面で先行し、かつ、今後の事業展開においてもスポットワークだけに注力して成長性を維持することが可能な状況です。こうなると、大手企業でもベンチャー企業を相手にそう簡単には勝てない市場環境となっています

全社的な投資効率性

リクルートはスポットワークだけを事業とするわけではありません。売上の比較的あがりやすい新卒採用や転職市場の活動が主領域で、当然、そうした領域では大手企業を中心とした熾烈な競争が行われています。
資本市場では収益性や投資効率性が常に求められます。A事業の投資効率性が10%、B事業の投資効率性が7%の場合、計算上はA事業に全資本を投資しますが、リスク分散を考慮して、一定割合はB事業に回すというのが一般的です。ここで、新卒や転職者のマッチングと、スポットワークのマッチングとでは、おそらく投資効率性が全然異なるのでしょう。また、スポットワーク市場自体、ベンチャーを中心として競争が苛烈化しており、多少の投資では収益化は見込めない、そうであればスポットワークには資本を分配しないというのはごく自然な判断です

フリーランスの仕事は今後本当に伸びるのか

フリーランスのマッチングは最近、急速に伸びてきましたが、果たして今後もこの成長速度を維持できるかどうかは疑問の余地があります。文章やデザインの作成などは、今や生成AIの方が早く安く行うことができ、著作権侵害の懸念が払拭されれば、今後、ほとんどの方が生成AIを活用し、この分野のフリーランスは絶滅するおそれがあります。もちろん、すべてのギグワーカーが生成AIにとって変わられるとは思いませんが、今、人間が小回りよく対応できているちょっとした仕事の大半はAIに奪われてしまうかもしれない。その観点で考えると、スポットワーク市場は将来的な成長性は意外に高くなく、今、躍起になって取り組まなければならないほど優先順位が高いわけではなさそうで、そうした観点もふまえて、リクルートはこの分野からの完全撤退を決めた可能性があります。

まとめ

企業は存在するなら利益を上げなければならず、それも投下資本に対して少しでも高い利益率を貪欲に追求する必要があります。
大手企業といえば関連する領域にはフットワーク軽く事業範囲を拡大する、いわゆる関連多角は常套手段であると考えられがちです。それは関連多角化にシナジー創出と、リスク分散のメリットが通常あるためなのですが、このリクルートのスポットワーク事業への撤退は、前者のメリットはありそうであるものの、全社的な投資効率性への悪影響が大きいと見込まれ、後者の観点ではデメリットとなる可能性があるため、こうした結果になった可能性があります。
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