ゴールデンウィーク明けの労働環境。ここに気を付けよう

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ゴールデンウィーク明けに退職者が増加しやすい

日本の労働市場では、長期休暇明けに退職者が増加する傾向があることがいくつかの統計や調査で示されています。たとえば、厚生労働省が公表している「雇用動向調査」や大手転職サイト(リクナビNEXTやエン・ジャパン等)の退職・転職に関する実態調査などによると、年間を通じて退職が多いタイミングのひとつが「5月(ゴールデンウィーク明け)」であることが確認されています。
特に2020年代以降、5月・6月・9月といった長期休暇明けの月に退職希望者数や転職サイトへの登録者数が一時的に増加する現象が顕著になっています。
背景としては、ゴールデンウィークという日本特有の大型連休によって労働者が一旦仕事から離れ、自分自身やキャリアについて冷静に振り返る機会が得られることが挙げられます。リクルートワークス研究所の調査でも「長期休暇を経て、自分の将来を考え直す人が増える」という傾向が明らかになっており、これが結果的に退職・転職意向の高まりにつながっています。
そこで本稿では、こうした5月の退職傾向をふまえて、どのように人材マネジメントを進めればよいかを説明します。

本人の希望と会社の配置が合わない「ミスマッチ」

退職理由の中でも近年注目されているのが「ジョブ・ミスマッチ(職務・配置の不一致)」です。特に新卒社員や中途採用社員の場合、配属先や実際に担当する業務内容が入社前の期待や本人の適性と大きく異なっていた場合、「このままこの仕事を続けても成長できないのではないか」「自分がやりたかったことと違う」と感じるケースが少なくありません。
ゴールデンウィークは多くの企業で新年度が始まった直後の4月に続く最初の大型休暇です。新卒社員の場合、入社から1カ月ほどで業務内容や職場環境がある程度明らかになり、「思っていた職場と違う」という違和感や不満が明確になるタイミングです。また中堅社員でも、人事異動や組織再編が4月に行われた場合、新たな配置が自分のキャリア志向と合致していないと感じるケースがあります。
こうした「自分が望んでいたキャリアと現状の仕事のズレ」を休暇中に冷静に振り返ることで、退職や転職という選択肢が現実味を帯びてきます
ミスマッチは早期離職の大きな要因であり、ゴールデンウィーク明けはその意思決定が表面化しやすい時期といえます。

日本企業はこれまで成長性が高かった

過去数十年、日本企業は高度経済成長期からバブル経済期、そしてその余韻が残る1990年代前半まで「終身雇用」と「年功序列」をベースにした安定した雇用体系と高い成長率を背景に、社員は会社に長く勤めることで着実に昇進・昇給が見込める状況がありました。企業側も内部育成を重視し、長期間勤めることでスキルや人脈が広がる「一社専属型キャリア」が一般的でした。
しかし、バブル崩壊後の経済低成長期やグローバル化・デジタル化による産業構造の変化により、「一社に勤め上げれば安泰」という神話は崩れつつあります。
特にミレニアル世代やZ世代の若手社員は「会社の成長力や将来性」「自分自身の市場価値を高められるか」を重視する傾向が強く、成長性や挑戦の少ない環境に長くとどまるリスクを意識するようになっています。
ゴールデンウィーク中にこうしたキャリアの長期的視点で「自分のスキルアップや市場価値はこの会社で高められるのか?」と自問自答し、会社の成長性に疑問を感じた場合、退職や転職への行動に移るケースが増えています
会社の成長余力への懸念は、特にIT・スタートアップ業界や専門職人材で顕著です。

休み明けの疲れ。曇天増加によるテンション低下

心理・生理面での要因も見逃せません。ゴールデンウィーク期間中、人は「非日常」の環境でリフレッシュしたり、家族や友人との時間を楽しむことにより、仕事へのモチベーションよりも「余暇・私生活の充実」の価値観を再認識します。これにより「もう少し自由な生活を送りたい」「ワークライフバランスを見直したい」という気持ちが強まります。
さらに5月は日本の気候特性上、「五月病」と呼ばれる軽度の適応障害が起きやすい時期です。連休明けの疲労感とともに、5月中旬以降は曇天・雨天が増え、気圧の変化や日照不足により気分が沈みがちになります。
これらが相まって「このままこの職場で頑張る気力が湧かない」と感じやすくなり、退職の決断に至る心理的ハードルが下がります
厚生労働省によれば、適応障害やうつ症状を訴える患者数は5月・6月に一時的に増加する傾向があり、こうした精神的コンディションの悪化が退職理由として表面化することも多いのです。

ホワイトすぎるから退職。やりがいやフィードバックも重要

もうひとつ近年の特徴として、「ブラック企業からの脱出」だけでなく「ホワイトすぎて退職」という現象も注目されています。
福利厚生が整い残業が少ない環境は一見理想的ですが、「業務量が少なすぎる」「チャレンジする機会がない」「評価・フィードバックが曖昧で成長実感がない」という環境は、特に成長意欲が高い若手社員にとっては「物足りなさ」や「停滞感」につながります。
経済産業省の「働き方改革実態調査」でも、「やりがい・達成感の欠如」が離職理由の上位に挙がっており、ホワイト企業でも「放置型マネジメント」や「過度な定型業務」が原因で退職を決意する人が増えています。
ゴールデンウィークはこうした「自分はこのままでいいのか?」という内省が深まる時期でもあり、「もっとチャレンジできる環境に移ろう」という決断を促しやすいのです。

まとめ

以上のように、ゴールデンウィーク明けに退職者が増加しやすい理由は多面的です。
統計的にも5月は退職が増える時期であり、その背景には「職務のミスマッチ」「会社の成長性への不安」「長期休暇中のキャリア内省」「休み明けの心理・身体的疲労」「やりがい・成長実感の欠如」などが複合的に存在します
現代の労働市場では「働きやすさ」だけでなく「働きがい」や「キャリア形成支援」がますます重要視されており、企業側も社員の内省のタイミング(特に大型連休前後)に合わせたキャリア面談やフィードバック、柔軟な配置転換策を講じることが退職防止策として有効です。
一方、労働者自身も「衝動的な退職」ではなく「中長期的なキャリアビジョン」と「現職で得られる経験の棚卸し」を冷静に行い、自分にとって最適な選択を模索することが重要です。
ゴールデンウィーク明けは「一時的な気分」ではなく「本当に退職すべきかどうか」を考える良いタイミングとも言えるのです。
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