症状があっても出勤する社員
発熱や咳・くしゃみなどの症状があっても会社に出勤する従業員はどこの企業にもいるでしょう。1人仕事を休むとその穴埋めが難しい職場で特にその傾向は強くなりますが、それで社内で感染拡大しては組織の労働効率性に致命的な打撃を与えてしまいかねません。
そこで本稿では、発熱などの症状のある社員を会社命令で休ませることができるか、その際の給料がどうなるかを整理します。
会社命令で休ませることは可能
結論として、発熱などの体調不良が明確な従業員は、会社命令で休ませることができます。わかりやすいのは就業規則や労働協約などでルールが明確化されている場合で、この場合はルールに則って手続を進めて問題ありません。
就業規則等に書いていない場合ですが、労働それ自体は労働者の権利ではなく(対価である給料が権利)、他に守るべき利益がある場合は、利益衡量の原則により、従業員を休ませることができます。そのため、明確に発熱などの体調不良がある従業員に対しては、出てこられると周囲に感染が広がるおそれがあるため、会社命令で休ませて問題ないでしょう。
テレワークの強制は困難
仕事に穴を開けられると困る企業では、休まれると人手が足りないため、テレワークをしてほしいと要望するところもありますが、これは無理強いはできません。
発熱などの症状がある人間に、自宅であっても通常業務を要求するのは酷であるため、ファーストチョイスは休ませる方になります。また、オフィスで仕事をするか、家で仕事をするかは本人が自分で決めるべきことであり、会社の都合でどこで働けと指示するのはなかなか合理的な理由を探すのが難しいでしょう。
給料は原則発生
会社都合で仕事を休ませた場合、それが就業規則などのルールに基づいたものであれば、給料の支払もそのルールに基づいて処理することになります。会社の命令で、働きたい従業員の働く機会を奪っている構造であるため、多くの場合、給料は全額発生。あるいは、全額に近い金額発生するケースが多いでしょう。
就業規則などに定めがない場合、労働基準法に基づいて処理することとなります。ここで、同法26条では使用者の責めに期すべき事由による休業については60%の休業手当を支払わなければならないと定めています。そしてこの条項については労働者の生活保障の趣旨が強いと解釈されていることをふまえると、会社の業務や他の社員を守るための休業は、この条項に基づく手当の対象となる可能性は高いと考えられます。
全社的な利益を考えれば出社回避が推奨される
風邪でもインフルエンザでもコロナでも、職場で転々と伝染していくと会社の全社的な生産能力には大打撃となってしまいます。しかし、有給休暇を使うか使わないかは労働者の権利であり、会社から有給休暇をとるよう促すことはできません。
職場の生産能力を維持するためには、少しでも感染症の兆候のある従業員は、特にこの季節、出社させない取り組みが必要で、就業規則などでしっかりとルールを策定するほか、柔軟なテレワークの許容、手厚い休業手当で、症状のある従業員が無理して出社しない環境作りが大事になります。
まとめ
労働者保護の強い日本の法律下では、インフルエンザなどを押して無理に出社する従業員を強制的に管理する範囲は限定されています。しかし、会社の業務全体を守る必要性も高く、要は、鼻水をたらしながら出社する従業員に対してどう対応するか、予め弁護士と協議し、ルールを定めておくことが大事です。
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