”とりあえず共同親権”はやめておきましょう【弁護士×CFPが解説】

離婚

共同親権制度が開始

本年から、離婚後の親権制度に共同親権という新たな選択肢が加わりました。これまでの制度では、離婚後は父母のいずれか一方のみが親権者となる単独親権が原則でしたが、制度改正によって一定の要件を満たす場合には父母双方が親権を持つことができるようになりました。この制度改正は、離婚後も父母がともに子どもの成長に責任を持ち続けることを可能にする制度として注目されています。一方で、制度が始まったばかりであることから、その内容や実際の運用について十分に理解されないまま話し合いが進められる場面も少なくありません。

離婚を考える当事者にとって、親権は最も重要な問題の一つです。これまでであれば、どちらが親権者になるかを決めなければなりませんでしたが、共同親権という制度が加わったことで、「どちらか一方が親権を失うくらいなら、とりあえず共同親権にしておこう」と考える人も少なくないでしょう。また、自分自身は単独親権の方が望ましいと思っていても、相手方の希望や子どもの気持ちを考慮し、妥協案として共同親権を選ぼうとするケースも考えられます。一見すると、双方が納得しやすい穏当な解決策にも見えるため、このような判断に至ることは決して不自然ではありません。

しかし、共同親権は単に親権者を二人にするだけの制度ではありません。離婚後も父母が子どもに関する重要事項について継続的に協議し、必要に応じて合意を形成していくことが前提となる制度です。そのため、離婚時だけでなく、その後も長期間にわたって一定の関係を維持し続けることが求められます。制度そのものは選択肢を広げるものですが、その選択には相応の責任と負担が伴います。

特に注意したいのは、「今は決めきれないから共同親権にしておこう」「後から考えればよい」という発想です。このような考え方は、制度の趣旨とは必ずしも一致しません。共同親権は離婚後の日常生活の中で実際に機能して初めて意味を持つ制度であり、離婚時の精神的な負担を軽くするためだけの制度ではないからです。十分な検討をしないまま共同親権を選択すると、離婚後になってから想定以上の負担に直面する可能性があります。

そこで本稿では、共同親権の実態を踏まえながら、子どもの今後を見据えて親権の在り方をどのように考えるべきかについて解説します。

監護権者をどうするか

共同親権を選択した場合であっても、それだけですべての問題が解決するわけではありません。その後には、子どもを実際に監護養育する者、すなわち監護権者をどのように定めるかという重要な課題が残されています。親権と監護権は密接に関係していますが、必ずしも同じものではありません。そのため、共同親権という制度を理解するためには、監護権についても正しく理解することが欠かせません。

従前の単独親権制度では、多くの場合、親権者がそのまま監護権者となっていました。親権者が子どもと生活を共にし、日常的な養育を担うことが通常であったため、親権と監護権を区別して考える機会はそれほど多くありませんでした。しかし、共同親権制度では父母双方が親権者となる可能性がある一方で、子どもは現実には一つの生活拠点で暮らさなければなりません。そのため、実際に子どもを監護する者を定める必要があります。

子どもの生活は日々継続しています。学校に通い、医療を受け、地域社会の中で生活していく以上、生活の拠点が二つ存在することは現実的ではありません。そのため、共同親権であっても監護権まで完全に共同とすることは難しく、どちらか一方が中心となって監護する形になることが一般的に想定されます。つまり、親権は共同であっても、日常生活の中心となる親は事実上一人になる場面が多くなります。

このような状況になると、監護権を持たない親権者は、法律上は親権者でありながら、実際には日常的な養育に関与する機会が限られることがあります。もちろん、重要事項については親権者として関与することになりますが、子どもの生活の大部分には直接関わることが難しくなる可能性があります。その結果、親権者という立場と現実の役割との間に差が生じ、双方にとって戸惑いや負担を感じる原因となることがあります。

さらに、監護権者と共同親権者との役割分担が曖昧なままであると、判断すべき事項ごとに協議が必要となり、その都度調整を行わなければならない場合があります。制度上は共同親権であっても、実際には一方が日常生活を担い、もう一方は限定的な関与にとどまるという状況になれば、「共同」という名称から受ける印象との間にギャップを感じることもあるでしょう。

共同親権を選択する際には、親権という言葉だけに目を向けるのではなく、監護権との関係まで十分に理解しておくことが重要です。監護権者をどのように定めるかは、離婚後の子どもの生活だけでなく、父母双方の役割や負担にも大きく影響します。共同親権という制度だけに安心感を抱くのではなく、実際の生活に即して現実的に検討することが求められます。

共同親権は両親のコミュニケーションがとれることが前提

共同親権は、父母双方が親権者として子どもに関する重要事項を協議しながら決定していく制度です。そのため、この制度が適切に機能するためには、離婚後も父母が継続的にコミュニケーションを取ることが前提となります。離婚によって夫婦関係は終了しますが、共同親権を選択した場合には、親としての協力関係は継続することになります。この点は、単独親権との大きな違いといえるでしょう。

もっとも、離婚に至る夫婦のすべてが円滑な意思疎通を図れるわけではありません。離婚前から意見の対立や口論が絶えず、十分な話し合いができなかった夫婦も少なくありません。そのような状況で共同親権を選択すると、子どもに関する重要事項を決めるたびに対立が繰り返される可能性があります。制度上は共同で判断することになっていても、現実には協議そのものが大きな負担となることも考えられます。

したがって、共同親権に向いているかどうかを考える際には、離婚時の感情だけではなく、離婚後も冷静に連絡を取り合える関係を維持できるかという視点が重要になります。相手の考えを尊重しながら必要な情報を共有し、子どもの利益を第一に考えて協議できることが求められるため、日常的なコミュニケーション能力が制度の運用を左右するといっても過言ではありません。

一方で、共同親権を選択するためには、必ずしも近隣に住んでいる必要はありません。現在では電話や電子メール、各種SNSなどを利用して連絡を取り合うことが容易になっており、物理的な距離があっても必要な意思疎通を行うことは可能です。

もっとも、離婚後には父母それぞれが新しい生活を築いていくことになります。仕事や生活環境の変化、新たな人間関係など、それぞれが自分自身の人生を歩み始める中で、継続的なコミュニケーションを維持することは決して容易ではありません。親としての責任を果たすためとはいえ、その都度連絡を取り合い、協議を重ねることは心理的にも時間的にも負担となる可能性があります。

共同親権は、父母双方が子どものために協力し続けることを前提とした制度です。その前提を満たせる関係にあるのかを冷静に見極めることが重要であり、「共同だから良い」「一人が親権者にならないから安心」という発想だけで選択するべき制度ではありません。離婚後も現実に継続するコミュニケーションの負担を十分に理解した上で判断することが大切です。

養育費の支払いを促す効果はあるが

共同親権には様々な評価がありますが、その中で期待される効果の一つとして、父親による養育費の支払いを促しやすくなるのではないかという点が挙げられています。離婚後も共同親権者として子どもに関する権利と責任を持ち続けることにより、親としての当事者意識が維持され、養育費についても責任ある対応につながるのではないかという考え方です。制度の導入を支持する意見の中には、この点を重視するものも少なくありません。

もっとも、ここで忘れてはならないのは、養育費の支払い義務は親権の有無によって決まるものではないということです。親権者であるか否かにかかわらず、父母はともに子どもを扶養する義務を負っています。したがって、共同親権になったから初めて養育費を支払う義務が生じるわけではありませんし、単独親権だから支払わなくてもよいということにもなりません。養育費は親権とは切り離して考えられるべき法的義務です。

しかし現実には、単独親権制度の下では、親権を持たなかった父親が次第に子どもとの接点を失い、それに伴って養育費の支払いも滞ってしまうケースが少なからず存在しました。共同親権であれば、離婚後も子どもに関する重要事項について父母が連絡を取り合い、必要な協議を重ねる場面が生まれます。そのような継続的な関わりの中で、子どもの生活状況や成長を実感し、養育費を約束どおり支払うことへの責任感が高まるのであれば、それは制度が持つ一つの効果として評価することができるでしょう。

ただし、その効果だけを理由に共同親権を選択することには慎重であるべきです。養育費の支払いを確保するという目的は重要ですが、それだけで共同親権を選択すると、離婚後の長期間にわたり生じる協議や連絡、意思決定といった様々な負担との均衡を欠くことになりかねません。共同親権は養育費を支払わせるための制度ではなく、あくまでも子どもの利益を実現するための制度であることを忘れてはならないでしょう。

メンツだけで決めるべきことではない

共同親権という制度は、一見すると父母双方が親権者であり続けることのできる制度であるため、どちらか一方だけが親権を失うという精神的な負担を避けられる仕組みのようにも見えます。特に、これまで親権を取得できなかった親にとっては、自分も引き続き子どもの親権者でいられるという点に大きな安心感を抱くことがあるでしょう。その意味では、双方の気持ちに一定の配慮がなされた制度であることは否定できません。

しかし、親権者という肩書きを維持することと、共同親権を適切に運用できることとは別問題です。共同親権を選択した場合には、監護権者との役割分担を整理しなければならず、その後も子どもに関する様々な事項について継続的な協議が必要となります。離婚によって夫婦関係は終わったにもかかわらず、親としての連携は長期間続くことになるため、その負担は決して軽いものではありません。

また、共同親権によって父親が親としての責任を自覚し、養育費の支払いが安定するのであれば、それは望ましい結果といえます。しかし、養育費の履行を確保するための方法は共同親権だけではありません。養育費だけを理由として共同親権を選択する必要性は慎重に見極めるべきです。

さらに注意したいのは、親権という言葉に過度なこだわりを持ってしまうことです。「親権を失うと親ではなくなる」「共同親権でなければ父親として認められない」といった感情が先行すると、本来最も優先されるべき子どもの利益よりも、大人の感情や体面が判断基準になってしまう危険があります。共同親権は父母の気持ちを満たすための制度ではなく、子どもの健全な成長を支えるための制度であるという基本を忘れてはなりません。

離婚後には、それぞれが新しい生活を築いていくことになります。そのような中で長期間にわたり協議を続け、必要な連絡を取り合い、子どものために冷静な判断を積み重ねられるかどうかを現実的に考える必要があります。「とりあえず共同親権」「親権を失いたくないから共同親権」という発想ではなく、離婚後の生活全体を見据えながら慎重に判断することこそが、子どもにとっても父母双方にとっても望ましい選択につながります。

まとめ

共同親権制度の開始によって、離婚後の親権について新たな選択肢が生まれました。父母双方が親権者となることができる制度であるため、一見すると双方の希望を満たしやすく、対立を和らげる制度のようにも見えます。しかし、その実態は単に親権者が二人になるというものではなく、離婚後も長期間にわたり父母が協議と連携を続けることを前提とした制度です。

共同親権を選択した場合には、監護権者を定める必要があり、実際には一方が子どもの日常生活を担う場面が多くなります。また、子どもに関する重要事項については継続的なコミュニケーションが求められるため、離婚後も冷静な話し合いができる関係を維持できることが制度の前提となります。このような負担は決して小さなものではなく、制度の名称だけから受ける印象とは異なる現実があることを理解する必要があります。

養育費の支払いを促す効果が期待されることは共同親権の一つの利点と考えられますが、それだけを理由として共同親権を選択することは適切ではありません。養育費は親権の有無にかかわらず負うべき責任であり、その履行を確保する方法も共同親権以外に存在します。制度の一部分だけを見て判断するのではなく、離婚後の生活全体を見据えた上で検討することが重要です。

共同親権は、父親や母親の体面を守るための制度でも、「とりあえず」の妥協案として利用する制度でもありません。制度を利用することによって生じる責任や負担を十分に理解し、それでもなお子どもの利益につながると判断できる場合に初めて選択すべき制度です。親としての感情だけでなく、離婚後の現実的な生活や子どもの成長環境を冷静に見据えながら、慎重に判断することが何よりも大切です。

当研究所では、離婚を人生の再設計と位置付け、子どもの親権や離婚後のお金の問題を総合的に考慮して貴方の最善の選択を支援いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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